第13話:仁と覇
仁徳の王と覇王。後々の好敵手が対峙する。
戦を完勝した俺達義勇軍。戦場で戦後処理を実施する部隊4,000と敵陣地の掌握に向かう部隊2.000に分かれ、俺と愛紗、桃香、鈴々、朱里、雛里は敵陣地へと足を踏み込んだ。
「敗残兵が潜んでいるかもしれん‼︎各自、陣地内をくまなく調査しろ‼︎」
「見つけた物資には手を付けず、すぐに私達に報告して下さいね」
『応っ‼︎』
愛紗達の指示を受け、まだ幾分か元気な兵士が陣地の奥へと走り出す。
「ひとまずは一件落着だな」
「そうだね♪みんな、ご苦労様でした♪」
「姉上こそ本陣の指揮、お疲れ様でした」
「天然なお姉ちゃんにしては中々よい指揮だったのだ」
「うぐっ……ほ…殆ど雛里ちゃんのお陰だったりするんだけどね……あ…あははは……」
「そんなことはないよ。桃香が一生懸命がんばってくれてたから俺達も安心して戦えたんだ。桃香のお陰だよ」
そういいながらご褒美代わりとして頭を撫でてあげる。撫でられた桃香は嬉しくて何時もの満面な笑みを浮かべながら照れる。
「朱里も雛里もありがとうね。2人の知略もあったから完勝出来たしね」
「はわわっ⁉︎あ…ありがとうごじゃいましゅ‼︎」
「あわわ〜………」
今度は策略を巡らせたちびっ子軍師達を撫でて上げる。
すると鈴々が頬を膨らませながら袖を引っ張る。
「お兄ちゃん‼︎鈴々頑張ったのだからも頭をナデナデして欲しいのだ‼︎」
「こ…こら‼︎鈴々‼︎」
「はははっ。分かってるよ」
「にゃはは〜♪」
「あぅ………ご……ご主人様……」
愛紗と鈴々にも頭を撫でて上げると、戟を手にした兵士が駆け寄ってきた。
「報告‼︎」
「どうした?」
「はっ‼︎陣地の西方に官軍らしき軍団が現れ、我らの指揮官にお会いしたいと……」
「‘‘官軍らしき”とはどういうことだ?」
「それが……官軍が使用する旗を用いずに、自軍を表すと思われる‘‘深紫の曹旗”を掲げているのです」
俺は報告にあった‘‘深紫の曹旗”に反応してしまう。ここから西の勢力で牙門旗に曹が付く陣営といえば………。
「官軍を名乗りながら、官軍の旗は用いず。……恐らく黄巾党征伐に乗り出した諸侯でしょうね」
「曹と言えば……許昌を中心に勢力を伸ばしている、曹操さんかと……」
………後に‘‘乱世の奸雄”と称される英雄曹操 孟徳しか考えられなかったからだ。
「曹操か……どうしましょう?」
「えっ?曹操さんって味方でしょ?じゃあ挨拶はしておいた方が良いと思うけど……」
「そうですね。上手くいけば共同戦線を張れる可能性もありますし」
「しかし……我らの手柄を横取りするということも考えられるのでは?」
「私が聞き知っている曹操さんなら、そんな恥知らずな行動はしないと思います」
「曹操って人は誇り高き覇者……そんな言葉の通りの人だよ。器量、能力、兵力、そして財力。全てを兼ね備えているといっても過言じゃないよ」
少なくとも俺はそう認識している。俺が知っている曹操という存在は悪役とされているが
実際の曹操というのはまさしく英雄。
技量や能力はもちろん従う兵の多さや名門曹一族と実質の家元である夏侯一族の財力。どれをとっても見事としかいいようがない。
「ほわ〜……なにその完璧超人さん」
「しかし………そのような人物が、なぜ我らのような弱小部隊に声を掛けたのでしょう?」
「それは本人から直接伺うことにしよう。ごめんだけど曹操をここに連れて来てくれない?」
「はっ。……あの、こちらでお迎えするでよろしいですか?」
「ああ。向こうが声を掛けてきたのだから、相手が諸侯と言えども、我らは堂々ここで出迎える」
「はっ!」
そして兵士は駆けていった。残った俺達は会うこととなる曹操がどんな人物なのか想像しながら待っていた。
「曹操さんかぁ~……どんな人だろうね~」
「なんでも自分にも他者にも誇りを求める人らしいです」
「誇り?誇りってどういう意味かな?」
桃香がそう考えていると………。
「‘‘誇り”とは、天へと示す己の存在意義。誇り無き人物は、例えそれが有能な者であれ、人としては下品の下品。そのような下郎は我が覇道に必要は無し…………そういうことよ」
背後から誰かに話しかけられた。そこにいたのは金髪でサイドツインロールテールにした小さな女の子に、黒いロングヘアに水色のショートヘアをした女の子2人だ。
しかも中央の女の子から漂う覇気は非常に凄まじく、思わず神龍双牙に手を添えていた。
「うわっ⁉︎ビックリした‼︎」
「誰だ貴様⁉︎」
「控えろ下郎‼︎この御方こそ、我らの盟主であられる曹 孟徳様だ‼︎」
やはりこの女の子が曹操か………ということは左右の女の子達が夏侯惇と夏侯淵となるかな。
いきなりの登場に桃香達は驚きを隠せずにいた。
「そ……曹操さんっ⁉︎えっ⁉︎でもついさっき呼びに行ってもらったばかりなのに⁉︎」
「他者の決定を待ってから動くだけの人間が、この乱世の中で生き延びられると思っているのかしら?」
「それはそうだな」
「寡兵なれど、戦場を俯瞰して戦略的に動ける部隊ならば、大軍を率いて現れた不確定要素を放置しておける訳が無い……ただそれが分かっていただけ」
それがさも当たり前のように曹操が言い放つ。
「改めて名乗りましょう。我が名は曹操。官軍に請われ、黄巾党を征伐するために軍を率いて転戦している人間よ」
「こ…こんにちは‼︎私は劉備って言います」
「劉備……良い名ね。あなたがこの軍を率いていたの?」
「いえ。私じゃなくてご主人様が……」
「ご主人様?」
「はい、この人が私達のご主人様で巷では‘‘天の御遣い”様って呼ばれてます」
ご主人様という言葉に反応して曹操は俺に視線を移す。
「あなたがこの子のご主人様とやら?」
「そういう事になってるよ」
「ふぅ〜ん………何だが普通ね」
「よく言われるよ」
「あんな予言なんてエセ占い師の戯言だと思ってたけど、まさか本当だから信じろっていうのかしら?」
「そこを信じる信じないかは自由だね」
「貴様‼︎華琳様になんて口の聞き方を‼︎」
夏侯惇と思われる女性は手にしていた大剣をいきなり振り下ろして来たが、神龍双牙を素早く抜刀して受け止めた。
「なっ⁉︎」
自分の攻撃が受け止められるという状況にこの女性は唖然としていた。しかしすぐに俺は大剣を吹き飛ばし、鋒を喉元に突きつけた。
「……………」
「……次は無いと思え」
それだけ伝えると鋒を外し、神龍双牙を納鞘する。殺気を当てられていた女性は全身の力が抜けたようにその場にしゃがみこんでしまった。
「曹操さん……信じるも信じないも、さっき言ったようにあなたの自由だけれども………気に食わない理由で相手に斬り掛かっていい訳がない。もしそれで後ろにいるこの子が怪我でもしたらどうするつもりだったんだ?」
そういいながら俺は背中にいる雛里の頭を撫でながら質問する。
俺の背中には先程から雛里がいて、先程の攻撃は力こそあるが単純だったので避けることなんか可能だが、そうしていたら雛里が怪我をしていたかもしれない。
怒気を込めながら問いただしていると、曹操は頭を下げる。
「……悪かったわ。部下の無礼は私の無礼でもある。そっちのあなたも謝罪させて貰うわね」
「あぅ……わ…私は……ご主人様が護って下さいましたから………その…えと……だ…大丈夫です……」
「そう言ってくれて助かるわ。話は戻るけど、この義勇軍を率いているのはあなたでよかったのかしら?」
「俺は単なる御輿だよ」
「御輿?それにしてはあなたは武芸や知略にも優れているようだけれども……」
「だけどそれは俺個人としての能力さ。真に義勇軍を率いる魅力があるのはこっちにいる桃香………劉備 玄徳の力だよ。俺はそれを支える‘‘懐刀”ってとこ」
「へぇ。じゃあ真に義勇軍を率いているのは劉備ってことね?じゃあ劉備、あなたがこの乱世に乗り出した理由は何?」
「……私は、この大陸を、誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にしたい」
「それがあなたの理想なのね」
「はい……そのためには誰にも負けない。負けたくないって。そう思っています」
桃香の決意を聞いた曹操は軽く笑みを浮かべながら再び話しかけてきた。
「……そう、わかったわ………ならば劉備よ。平和を乱す元凶である黄巾党を殲滅するため、今は私に力を貸しなさい。
今の貴方には、独力でこの乱を鎮める力は無い。だけど今は一刻も早く暴徒を鎮圧することこそが大事。……違うかしら?」
「.……その通りです」
「それが分かっているのなら、私に協力しなさい………そう言ってるの」
「え、でも……」
決断に困っている桃香に俺は軽く失笑しながら話しかける。
「桃香、この提案は受けるべきだよ。今の我々には力が無いし、何よりもいい勉強にもなる」
「勉強?」
「そうだよ。曹操軍には有能な武将や軍師が多い。あまりこういった機会なんて恵まれないから、切磋琢磨しないとね」
「あら、あなたは物分りが良いのね」
「俺も君に興味があるからね。一緒に学ばせてもらうよ」
「ふふっ、精一杯学ぶといいわ……共同戦線については軍師同士で話をつけてちょうだい。春蘭、秋蘭、行くわよ」
「「はっ!」」
それだけ告げると曹操達は自身の陣地去っていった。それを見送り終わると桃香は緊張から開放されて大きく息を吐いた。
「凄い人だったね」
「自信の塊のような人でした」
「流石は曹 孟徳………大いなる野心が凄まじくて冷汗が止まらなかったわ……」
「噂に聞いてただけのことはあるね。あの大きい野心は必ず俺達の敵になるだろうね」
「やっぱりそうなるのかな………今回みたいに協力することは出来ないのかな?」
「戦うことになったら桃香はどうする?」
「もちろん立ち向かうよ‼︎だって私達も負けられないんだもん‼︎」
「……だと思ったよ」
こうして桃香達と曹操は一時的に共同戦線を張ることとなった。
俺達は近くの邑から義勇兵を募ったり、曹操軍の補充兵を宛がって貰ったりして、兵力の補充を行ったあと、占領した陣地を放棄して新たな目的地へと出発した。
いずれ必ず俺達の敵となる曹操。だけど今は頼もしい協力者でもある。その協力者には悪いけど可能な限り知識を吸い上げさせて貰うとしよう……………。
黄巾党を打倒する為、一時的に手を組んだ桃香と曹操。そして彼女達が各地の黄巾党を駆逐している時、洛陽方面でも動きぐあった。
30,000という大軍勢を率いて都に向かう黄巾軍本隊に1人の少女が現れる。
次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[番外編・深紅の呂旗 The ONE]
深紅の鬼神が黄色から紅へと染め直す。