第12話:初陣
何重にも策を巡らす一刀達。それを覇王が見ていることに気が付かない。
黄巾軍を見つけた俺達はすぐさま行動に移した。6,000の部隊を複数に分けて、まずは愛紗が率いる前衛が敵本陣に当たって、有る程度戦ってこちらの兵力をあえて教える。
その後に敵を誘き寄せる為に一斉に退却。敵は自分達が有利だと思い込んで守備隊を一切残さず追撃を開始。
それを愛紗と交代した鈴々の部隊が諦めさせず、尚且つ思い通りにさせない手加減した戦を繰り広げて待ち伏せできる態勢まで時間を稼ぐ。
その後に展開が完了したら鈴々も本隊と合流し、まんまと峡間に誘き寄せた敵を左右から俺達が一斉に仕掛けて殲滅するというのが流れだ。
そして俺も桜と共に隠れながらタイミングを伺っていた。
「愛紗達は上手く敵を誘き出せてるね」
「みたいね………本隊がぶつかったら一気に突っ込めるね」
そういいながら桜は自身の得物である連弩砲‘‘迫撃弩”を左手で構える。
どういう仕組みで攻撃するのか気になったので聞こうとしたが、本人から秘密とされて誤魔化された。
「ねぇねぇ、ちょっとカズ君」
「なに?」
「前から聞きたかったんだけど………カズ君って桃香と愛紗のどっちが好きなの?」
桜の言葉に思わず手を滑らせ、岩に頭をぶつけてしまう。一方で桜は反応を見て楽しいのか、女子高生みたいな恋愛に興味ありという表情をしている。
「ちょ……いきなり何を言ってるの⁉︎」
「え〜、だって気になるでしょ♪2人ともすっごく可愛いし、胸だって大きいし♪」
「いや………まぁ……た…確かに2人とも可愛いし……彼女だったらどれだけ……って⁉︎なにを言わせるの⁉︎」
「むふふっ♪お年頃の男の子だね〜カズ君も♪」
「い……いや……あのね…俺なんかよりも2人には相応しい相手が……」
「………………はぁ〜………」
「ちょ……なに?…なんで溜息なんか……」
「朴念仁」
「?」
なぜ溜息を吐いているのか理解できず、俺はぶつけた箇所を抑えながら見ていると主戦場に動きがあった。
先程まで追撃していた黄巾軍の動きが止まって、押され始めたのだ。その先を見ると黄巾軍を次々と仕留めていく愛紗と鈴々の姿。更には後方でも弓兵と弩兵による援護射撃も行なわれ、思わぬ反撃で敵が混乱しはじめたのだ。
それを確認した俺はすぐに神龍双牙を繋げて天龍斬爪とし、隠れたまま手を軽くあげる。
「カズ君‼︎上手くいったみたいだよ‼︎」
「あぁ……得物はまな板に乗った。後は刻むだけだ………」
そういいながら俺は上げた手を勢い良く振り下ろす。するとそれを合図にあらかじめ仕掛けていた10本もの丸太の縄が切断され、一気に崖を転がり落ちて黄巾軍に襲い掛かる。
黄巾軍もそれに気が付くがすでに遅く、何人かは寸前にかわしたが巻き込まれた大半の敵は下敷きとなる。
反対側からも吹雪が岩を落とし、丸太よりも重量があるので巻き込まれた人間はまず助からない。
これで敵は混乱の極みだ。浮き足立って戦線が崩壊した賊は我先にと逃げ出そうとするが、峡間におびき出されたこともあって身動きぐ取れない。
またとない好機だと判断した俺は一気に崖を滑り降りて、1人の賊に狙いを定めて天龍斬爪で身体を貫いた。
「一気に攻め立てろ‼︎人の心を無くした外道に情けを掛ける必要はない‼︎全て駆逐しろ‼︎」
敵の懐に飛び込むと天龍斬爪を左に振り下ろし、続いて回転しながら振り上げる。そのまま間髪いれず敵の身体を貫くと神龍双牙へと切り替え、両手で構えると向かって来た敵に斬りかかる。
「カズ君を援護するよ‼︎そのまま弓兵隊は弩隊を護衛‼︎」
部下に指示を出しながら桜も迫撃弩に装着されている刃で斬り伏せながら、槍を構えて突撃してきた敵の腹めがけて轟音と共に弓矢を撃ち出す。
どうやら彼女の迫撃弩はアサルトライフルみたいな構造をしているようであり、銃口から次々と矢が放たれて敵の身体に突き刺さる。
「桜達には負けないな………掛かって来い賊徒‼︎我が武術となれ‼︎」
合流した吹雪もいつものクールな性格から勇猛な武人となって立ち向かう。
体術使いでもある彼女は手甲‘‘夜叉手甲”と足甲‘‘羅刹足甲”にて向かってくる敵を捩じ伏せる。
右足にて敵の顔に回し蹴りを見舞って蹴り飛ばし、回転の反動を利用して裏拳。そのまま背後にいた敵を後ろ蹴りで蹴り倒してから崖を簡単に駆け上がるとそのまま空中より目にも止まらない速さで蹴りの連打を見舞う。
その俺達の武勇をみた兵士達は勇気を振り絞り、逃げ惑う黄巾軍を駆逐していく。
「逃げるんじゃねぇ‼︎殺してやらぁ‼︎」
「ぎゃっ⁉︎」
「俺達は天の御遣い様の義勇軍だ‼︎お前等なんかに負けねぇんだよ‼︎」
「ごふっ⁉︎」
「娘の仇だ‼︎死にやがれ‼︎」
「がはっ⁉︎」
各所で黄巾軍の悲鳴が木霊し、今までこいつらに苦しめられた味方達が襲い掛かる。
虐殺と云っても過言ではないが、奴等はそれ程のことを今までやって来たのだ。情けを掛ける必要など全くない。
俺達の勢いの前に瓦解した黄巾軍は続々と逃げ出そうとするが、予め退路を遮断していた部隊により討ち取られ、やがては全ての1万の軍勢を完膚無きまでに叩き潰したが、こちらも100人程の戦死者を出してしまった。
勇敢に戦った彼等を埋葬すると俺達は敵が放棄した兵糧陣地へと入った。
・?
「華琳様、西方に出した斥候が戻りました。我らの目的地にて既に戦が行なわれ、瞬く間に敵が壊滅したとのこと」
「そう………この辺りの敵に目を付けたとなると、倒した軍は漢軍ではなさそうね」
「恐らくは………主戦場から離れているとはいえ、戦略上重要な要所であるこの地に目を付けるなど、愚昧な漢軍に出来る筈がありません」
「諸侯の中にも、中々見所がある将がいるということでしょうな」
「ふむ………いちど顔を見てみたいわね………その軍勢の牙門旗は?」
「報告によれば………‘‘明緑の劉旗、関旗、張旗”に‘‘深緑の簡旗、糜旗”。それと………縦長の白い旗に羽を広げた鳥と丸に十文字という見たこともない牙門旗です」
「鳥と丸に十文字?」
「はい」
「向かいますか?」
「………そうね……その軍勢と合流するわ。全軍に進軍指示」
「「「御意」」」
劉備義勇軍がいる場所から少し離れた場所にいる1人の少女。彼女は部下に劉備義勇軍へと向かうよう指示を出すと不敵な笑みを浮かべた。
後に………桃香達の運命に大きく左右する‘‘覇王”と称される少女と仁徳王、更には御遣いの出会いまであと僅か……………。
完勝で陣地を制圧した義勇軍。そこに官軍が接近しているとの報告を受ける。
‘‘深紫の曹旗”。後の天敵となる覇王と一刀達が相対する。
次回‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[仁と覇]
2人の英雄が初めて対面する。