第11話:義勇軍の戦い
黄巾軍を射程に捉えた一刀達。朱里と雛里が早速智勇を巡らす。
公孫瓚の下を離れ、新たに諸葛亮こと朱里と龐統こと雛里という後に最も有名な軍師を仲間に加えて一週間後、俺達は冀州にある平原へと向かっていた。
補強できたとはいえ、俺達義勇軍は今だに弱小でしかなく、下手に黄巾軍に対峙していては返り討ちにあうのは明らかだ。
そこで朱里と雛里は手始めに小さな部隊を倒していき、軍備と兵糧を確保しつつ名声を挙げていく。
つまりは相手を選ぶということだ。一通りの方針を可決させて目的地の平原へと向かっている道中、俺達は進軍を停止する。
「ここより前方五里のところに、黄巾党とおぼしき集団が陣を構えております‼︎その数、約一万‼︎」
斥候部隊が黄巾軍を発見したのだ。
「一万か……思った以上に多いな」
予想していた兵力よりも多い一万の兵力。対してこちらの兵力は6,000人弱の兵力で4,000もの差がある。
どう戦うべきか考えていると雛里が俺の上着の裾を引っ張りながら話しかけてきた。
「だ…だいじょぶです。きっと勝てますから……」
「理由を聞いてもいいかな?」
「私たちには、勇名を馳せている愛紗さんとか鈴々ちゃんが居ますし、それに義勇兵の皆さんの士気も高いですから……」
「兵法の基本に‘‘攻撃3倍の法則”があるように、通常は相手より3倍の兵力を持って挑むけど、どうかな?」
「だけど、えと……わ…わたしたちが居ますから……」
「ん?どういう意味だ?」
「あぅ……」
愛紗の言葉に雛里はビクリと身体を震わせると、ヨロヨロと俺の背中に隠れる。そして顔だけ少し出しながら愛紗を見る。
「あーあ……」
「愛紗、雛里を怖がらせたらダメなのだ」
「ええっ⁉︎わ…私は別に怖がらせてなどいないぞっ⁉︎」
「へぅ……」
一刀「大丈夫だよ。愛紗は怒ってる訳じゃないから」
俺の背中に隠れた雛里の頭を慰めるようにポンポンと叩く。
「む、むぅ……」
「愛紗も落ち込まないで。ね?」
そういいながら愛紗にも優しく頭を撫でてあげる。
「と、とにかくですね。こういうときにこそ、私と雛里ちゃんが役に立つと思うんです」
話をなんとか本題に戻そうと朱里が話し出す。
「本来ならばさっきご主人様が言ったとおり、敵よりも多くの兵士を用意するのが用兵の正道ですけど。それが無理な以上、戦力の差を覆すには策あるのみです。……だからこそ、私たちが勉強していたことが役に立つかと」
「ならさっそく、その策とやらを教えてくれるかい?」
「はい、敵の陣がある場所ですが、そこは各方面から伸びた道が収束する場所となっています」
「そんな要所に兵が一万のみか……」
「だからこそ、相手は雑兵であると判断出来る訳か……それこそが2人の狙いだね?」
「えっ……どういうこと?」
「敵は私たちより多くの兵を持つとはいえ、雑兵でしかありません。またその雑兵が守っているのは黄巾軍全体に影響を及ぼすであろう重要な地です」
報告を聞く限りでは敵が展開している場所は交通の要所でもある場所だ。孫子兵法でいう処の衢地と呼ばれる場所であり、ここに展開して兵糧などを備蓄しておけば迅速に補給を送れる。
そんな重要な場所にたった1万しか兵力を回さないのもどうかと思うが……。
「そこを破れば、私たちの名は否応なく高まります。だからこそ、これは寧ろ千載一遇の好機」
「そこに補足を加えれば俺たちの兵は敵よりも少ないから相手は油断してくる筈だ。あとは数の差はうまく場所さえ選べれば数でも負けない状況は作り出せばいいんじゃないかな?」
「はわわ……正解です‼︎」
「あわわ……先に言われちゃいました……」
「おお〜‼︎ご主人様、正解だってー‼︎」
「だけど一刀さん、この辺りにそんな都合がいい場所なんてあるの?」
「ここから数里離れた先に干上がって渓谷みたいになってる場所があるよ。雨季になったら川になるけど、今の時季は完全に干上がってるわ」
吹雪が理想的な場所を提示する。確かに渓谷ならばこちらの兵力が少なくでも、誘い込めれば数しかない雑兵を殲滅させられる。
「じゃあ後は敵をその場所におびき寄せ、包囲した上で各個撃破していきます」
「でも、どうやっておびき出すの?」
「簡単です。敵が構築する陣の前に全軍で姿を現して……あとは逃げるだけです」
「敵に追尾させるということか……」
「そういうことです。私たちの軍はどう見ても正規軍には見えませんから」
「だとしたら敵は奪いつくし、殺しつくし、焼き尽くす……連中は血に飢えた獣のように襲ってくるだろうな」
「だからこそだよ。だからこそ……私たちがコテンパンにやっつけなきゃいけないの‼︎」
そんな桃香の一言が周りの将達に火をつける
。無論、俺もその1人だ。
「あぁ‼︎その通りだ‼︎じゃあ愛紗は前衛を率いて状況に応じて反転、峡間を目指す。鈴々は後衛を」
「え〜っ⁉︎鈴々も先陣を切りたいのだ‼︎」
「鈴々ちゃんには移動する部隊の殿を守ってもらいたいのですが……」
後衛と聞いて鈴々は頬を膨らませながら抗議するも、雛里の説明で渋々承諾したようだ。
「むぅ〜……そういうことなら仕方ないのだ。でも次は鈴々が先陣なのだ‼︎」
「あぅ……」
「じゃあ次の戦の先陣は鈴々ね。鈴々の補佐は朱里がやってくれるかな?」
「御意です♪」
「じゃあ私はー?」
「桃香は当然本陣です。雛里はその補佐。戦況に応じて対応できるようにしておいて」
「はいっ‼︎」
「桜と吹雪は俺と一緒に中衛。敵を誘い込んだら左右から一気に襲い掛かるよ」
「了解よカズ君♪」
「あぁ、任せてくれ」
こうして桃香たちは緊張感を高めながら戦地へと向かう。俺も愛紗達が誘導してくる敵部隊を罠に掛ける為の伏兵を率いて峡間の左右に展開する。
俺達義勇軍の初戦が間も無くで始まろうとしていた…………。
戦いの幕は切って落とされた。朱里達の策にまんまと嵌る敵に一刀達は左右より奇襲を仕掛ける。
だが、この戦は‘‘覇王”に見られていた。
次‘‘真・恋姫†無双 二筋の刀を持つ御遣い”
[初陣]
劉備義勇軍。初陣に策を巡らす。