バイトを手伝え
「このお店のオーナーが、サンタクロースの人なの。だから一緒にバイトとして手伝ってるわけ」
「なんだ、バイトかよ」
奴が初めにこの店を指定したのは、身内が経営している店で、居心地が良かったからなのかもしれない。
「なるほど。それで俺とどうやって仕事の話をするつもりだよ」
「それはだねぇ」
奴が台詞を言い終わるのと同時に俺が注がれていたコーヒーを飲み終わり、机の上に置いた。外がまだ一月で寒いからだろうか、早々と飲み終わってしまった。これでも味わって飲んでいるつもりだったのだが。
「バイト。手伝ってよ」
「………俺もこのバイトに付き合う事を要求するというのか?」
「ゴチャゴチャ言わない。取り敢えず裏方にくる。でもその前にお会計を済ませようか」
別にこれから注文などする気はなかったが、予想外に店員から会計を迫られるとは、怒りすら沸かなかった。もう面倒だという気持ちだけしか残らなかったのである。
「俺に何をさせるつもりだ」
「だからバイトだって。丁度、店員が少なくて困っているのですよ。手伝ってはくれないかな。女の子サンタクロースしかいないから、お得かもよ」
そうか、これは美橋及火もいると考えて差し支えないな。それよりどうしてサンタクロースだけをセレクトしている? このご時世なら単位よりもバイトを優先する馬鹿学生ならいくらでもいるだろう。店のイメージダウンの警戒か?
「ここがお店の中だよ。ここがキッチンで奥に食材を入れる場所があるよ」
「おい、俺が勝手に入って大丈夫なのか」
奥の社員控え室のような場所に案内された。植木鉢、高級そうな絵画、お洒落な机、革製の椅子、そして……明らかにロッカー。このロッカーの中ってまさか……思考をストップさせよう。俺はロリコンだ、ババアに興味はないっと。
「店長、新しいバイトを連れてきました」
「はいはい。お疲れ様」
……店長? 確かに『バイトを手伝え』と言われた瞬間から、店長とか経営者に合わされるとは思った。だが、俺が想像していたのは、眼鏡をつけた若手実業家のような男とか、極めて年をとった元気の溢れるお婆さんのような人だった。これが固定概念というやつか。
俺の目の前に現れたのは……女の子だった。えっと……女の子だった。白いワンピース、長い髪、つぶらな瞳。書類を触るその手は小さく、その身長に合わない机のせいで手を伸ばしている。
「おーう、お前が新しいバイトのサンタクロースか」
何故、サンタクロースを強調する。というか、早く幼女がここの経営者であるkとを俺の突っ込ませろ。大声で怒鳴りたいところだが、相手は子供だ。どういった対応をすべきだろうか。
「話は聞いているだろうが、圧倒的に人手が足らない。履歴書とか面接とか面倒だから、早く手伝ってくれ」
どうして幼女からバイトの話を持ち掛けられているのだ。そして、俺は一切、話を聞いていないぞ。