きっと杞憂だろう
分かっている、そう簡単な話ではないことに。あの二人とは知り合って間もない。俺に心を許していると考えるのは愚の骨頂だ。しかし……何かが気になる。美橋及火の警戒が嘘だとも思えない。
「あのさぁ。従事する身でありながら、こんな質問をするもの野暮だとは思うけど。結局、桜台制覇様って何者なんだ? 俺はあの人を嫌っている訳じゃなくて、本当の意味でお守りする為に、知るべき情報を知っておきたいのだが」
桜台制覇について俺が知っていること。マッドサイエンティスト。モンスターキャッスルの裏の番人。なんでも知り尽くしたような言葉使い。小学校に行っているのか不明。
「俺って制覇様のことを殆ど何も知らないんだよ」
俺の力ない声に、前の二人も口を開いた。
「悪いが俺もお前と同じで転がり込んだ身でな。俺もよく知らないんだ」
「右に同じく」
どう考えるべきか。身寄りのない人間を集めているのか。あの人は洗脳が素晴らしく上手だ。飴と鞭のコントロールを弁えている。危機的状況に陥らせてチャンスを与えたり、集合写真を見せて仲間意識を持たせたり。機械工学だけではなく、深層心理を把握しているようだ。
俺は忍者として育ったったから、過剰に考え過ぎる癖があるかもしれない。きっと杞憂だろう。
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俺は一晩明けて、布団から出てきた。今からは仕事がない、俺が活動するのは高校が終わる時間帯からだ。俺は中学生中退という話になるが、忍者の機関がとっくに俺の存在など抹消しているだろう。急な転校が決まって、転校先を聞かされず、いつの間にか消えるという話だ。まあ、俺も学校になど未練はない。
だが、あの二人は未だ学校に通っている。二人共高校一年生だったらしい。俺より年上だったのかよ。サンタ稼業の為に部活動などには入っていない。だから高校が終わる時間には三人で落ち合えるというシュチュエーションだ。
午前中などは専ら暇である。だから仕方がないので、掃除でもする事にした。朝ごはんを食堂で頂いた後は、モンスターキャッスルの武装を改めてベテランの警備員の人に聞きながら、廊下や窓を磨いた。午後も少し時間に余裕があったので、作戦の為に演技作りをしていた。
美橋及火の家の侵入を納得させなければならない。ここで美橋が持つ制覇様の不信感を払う必要がある。つまり有力な制覇様の情報が必要だと逆算した。取り敢えず先輩方から情報を共有させて貰った。小学校にはちゃんと通っているらしい。成績は教師の解答を出し抜く程の優等生だが、あの性格が災いし、友達は皆無らしい。




