馴れるって恐ろしいことだな
気になるのは俺のコードネームである。まあ察しはついているのだが。
「俺って皆からなんてコードネームで呼ばれているんだ?」
「………コードネーム。『ロリコン』」
やっぱりな、数日前の俺なら嫌がっただろうが、もう今の俺にとっては痛みを感じる言葉ではなくなった。ロリコンであるという触れ込みをこれ以上にないくらい刷り込まれた俺は、もう一生この職場で『ロリコン』というあだ名を呼ばれようと、我慢できるだろう。
「人間、馴れるって恐ろしいことだな」
まあどうせ俺はここのSPである以前に、サンタクロースなのだ。今更、ロリコンだろうと指して恥じることではない。悪い言い方をするなら、もう何もかも諦めたのだ。世代のかけ離れた女性を好む変態だと一生罵られるなんて、こんな不名誉なこともないと思うがな。
「まあ、あんた達も……『ゴミクズ』だの『クタバレ』だの、凄い大変だな」
「いいや、一年も経てば自分のアイデンティティになるさ」
頭のパンダの顔で表情が分からないのだが、パンダはきっと良い笑顔をしているのだろう。まあこの職場以外の人間は皆、俺と同じ境遇のような人間が多いだろう。そこまで神経質になる必要もないか。
またひとつ、人生の重要ポイントを諦めた俺は、溜め息と共にベッドに入った。もう風呂と食事と歯磨きは済ませた。あとは明日に備えて眠るだけである。
「また明日から潜入捜査だそうじゃないか」
「あぁ、そうだよ。サンタ試験のあとは、工場見学さ」
俺は餓鬼の頃から戦闘向けの忍者ではなく、隠密忍者として育てられてきた。だからこのように潜入捜査の担当となるのは本来的に、俺にとって適材適所であり、喜ばしいことなのだとは思うのだが。
「どうも不安感が抜けないんだ」
今回、俺があの玩具工場に潜入する理由は他にもある。俺が美橋及火の知人であるという理由だ。美橋は俺を警戒していない。一応はサンタクロースの仲間だと思っている。そして、俺は仲間を裏切りに行くのだ。
「それでも、入社してこんな短期間で制覇様の最高機密任務に抜擢させるなんて。君は出世街道マッシグラだよ」
出世など今の俺にはどうでもいい。俺は最終的に制覇様の笑顔を守れればそれでいいのだ。だが、俺は制覇様の為に最善の行動が取れているだろうか。美橋が言っていた、制覇様の思惑とはなんだろうか。
「おーい、ただいま帰ったぞ」
金髪が部屋に帰ってきた。その腕には缶コーヒーが三つ抱かれている。買ってきてくれたのか。
「それと坊主。表に犬小屋があるから行ってみろ。制覇様からの伝言で番犬としてなら飼ってもいいってさ」
そうだ!! 佐助!! 忘れていたつもりはないが、どうしても試験会場の雪山に連れて行けなかった奴は、この屋敷の中にこっそりと隠れておけと命令していたのだ。まあどうなったか気になっていたが、どうにか居場所を手に入れていたのか。俺はコーヒーを受け取ると、その場で飲まずに部屋を出た。