諦めて貰う手段
「これ以上無駄に考えても時間を浪費するだけだ。俺は奴らを倒す。それでサンタクロースになるんだ」
「駄目だって、暴力で解決だなんて。お爺様だってそんな事を望んでいない」
遂に意を決して立ち上がった俺の右腕を掴み取ると逃げられないように両腕でホールドした。少し涙ぐんでいて、真剣にこちらを睨んでいる。なぜ正面から闘う決心をした俺の、この裏表のない気持ちを邪魔するのかは定かではない。
「じゃあこうしようよ。私もその決闘に立ち合うよ。それで君が正々堂々戦って勝つ姿を確認する。私はまだ試験官だから君を監督する権利がある」
余計なお世話どころか、完全なる作戦妨害だ。そんな事をされたら立場の弱い受験生である俺が、手出しできなくなってしまうのではないか。なにが正々堂々だ、それで勝てる自信があるならとっくに喧嘩を吹っかけているんだよ。
相手の力量は分からない、こっちは戦闘向きの忍者じゃない。おまけに経験不足。更には奴等は二人もいるんだ。正面から戦って勝てる要素がどこにある。きっぱり言ってやろう。絶対に無理だ。
それでも変態性を爆発させて、恐怖を乱心で紛らわせて、命懸けで幼女のために身を擲つつもりなのだ。これでも俺は決死の判断なのだ。奴は俺が追い詰められている事実を知らないからこんな言葉が言えるのである。
俺の命の問題じゃない、俺の命などは、どうだっていい。だが桜台制覇様へのプレゼントだ。俺は絶対に彼女の喜ぶ物を手元に届けなくてはならないのだ。使命を完うする為には、心を非常にし、法を気にせず、残虐な手段を発揮しなくてはならないのだ。心など痛むものか。
「忍者であった俺はもう既に死んだ。ここにいるのは霧隠三太じゃない。俺はもうロリコンの化身でしかない。だからお前に邪魔されたら困る。俺の作戦遂行を止めてくれるな」
これ以上は限界だったかもしれない。これ以上に奴が俺の作戦を食い止めるというのなら……。
「落ち着けよ。変態さん」
俺と国谷の会話を止めたのは、傍で興味なさそうにボーっとしていた、美橋及火だった。急に話に割り込んでくるとは、どういう了見だろうか。
「別にお爺様は何もしろとか、指示はしてないんだろ。だったら、別に決闘じゃなくてもいいんじゃないのか。諦めて貰う手段ならいくらでもあるだろう。私たちが一緒に行くって言っているんだ。向こうだって思い切った行動は取らないさ。変態にだって法律は平等に降っかかるんだぜ」
お前だって一次試験で酷いめに合わされているくせに。……じゃあ俺にどうしろっていうのだ。サンタクロースになるのを諦めて貰う手段なんて。
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