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試験を辞退します

 俺はサンタクロースになれない理由がもしあったのだとしたら、それは俺が子供だった事だ。夢を与える側の人間が夢を信じている。子供が好き……それが引きつっている理由も明白だ。俺がまだ子供だから。



 精神的にという意味でも、肉体的にという意味でもない。人間にはそんな計測的証拠よりも大事な物がある。心の在り方、概念、見解、そして個人の自戒。俺にはそういう大事な物が欠落している。


 「君はサンタクロースを夢見ている。だが、それが現実の目の前に来てまで、実感と覚悟が整っていない。だから子供が好きなどと言う、それは個人に対する相手であってお子様全てへの無償の愛じゃない。だからサンタになりたいという、サンタになるイメージなど出来ていないのに」


 それ以外は言われなくても分かった。だから忍者である自分と心が決別できない。だから自分とは関係ないはずの、不正行為の犯人の所在が気になって面接中もそれしか考えていない。だから決断を迫られた時に、必死に迷いに迷う。子供だからだ……心が貫徹していないからだ。


 「俺は……サンタクロースになれない……」


 自分で言ってしまった。膝を落とし、涙を溜めた。感情が爆発した。今まで誰かに支えられて、守られて、押さえ込んできた情けない直球の心の不安が、体から溢れ出した。ブレーキは効かない。頭の中から全てが消える、それと同時に心が死んだ。


 初めは奴の言葉が理解できなかったが、今では理解できる。奴の言葉は全て正しかった。俺はこの試験会場に来た瞬間から間違っていた。心がサンタクロースではなかったのである。あの時点で……このサンタという職種に縋った時点で……俺は誰かに条件付けされる前から死んでいたのだ。


 「もう駄目だ。もう駄目だ。何もかも終りだ。はっ、はは、はははは」


 今まで自分の感情を堪えるという気持ちでコントロールしていた。だが、俺は全くの馬鹿野郎だ。そんな真似をしている時点で間違っている。体が拒絶している時点で駄目に決まっているじゃないか。


 「死のう。もう死ぬしかない。死亡確定じゃないか……」


 自分が壊れる音が聞こえた、霧隠三太が死ぬ瞬間を目の当たりにした。なんというか、人間である事への諦めがついた。


 「馬鹿者、面接試験中じゃ。顔を上げよ」


 「いや、いいです。ご無礼をお許し下さい。この試験、私は……辞退します」


 死のう、自殺しよう。もう思い残す事はない。死ぬ前にここまで頑張ったのだ。もう充分じゃないか、それ以上に決まっている。


 「だからお前は馬鹿なのじゃ。ちょっと待っとれ」


 魔王爺さんはゆっくりと腰を上げると左手を空に掲げた。すると、どこからか影のような不気味な装飾が集まり、一冊の黒色の分厚い本に変わり、スタっと魔王様の手の中に落ちた。


 「ほれ、見てみい」


 覗くように指で指示され、何も考えず誘導に従った。それは辞典というよりも、写真集と言った方が正しい代物だった。子供の写真だ、男女を問わず、皆が笑顔で笑っている。サンタクロースの腕の中に囲まれて。


 「微笑ましいじゃろ。この笑顔のためなら……魔王の仕事なんぞ、馬鹿らしく感じぬか? 今までの自分が本当に馬鹿に思えぬか。若きワシとて、君と同じような境遇じゃった。魔王とサンタの狭間で何千年も苦しんだ。だが、わしはやっぱりこの笑顔の方が大切じゃった」

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