サンタクロースの正体
奴は俺を子供だと言った、それは俺が夢を見ているかという話だろうか。サンタクロースを夢見ているから……きっと奴は俺を子供だと言うのだろう。
「夢を諦める瞬間というのは物心がつくというような表現をする。まるで幻想の世界の住人を卒業するように、マヤカシを全て脳内から消えてしまう」
こいつは……こいつは……なんなんだ……。
「君はそれでも、実家がおよそ一般人との生活とは掛け離れていた。それが原因で君の『自分は何者なのか』という質疑応答は無限を超えた。現代人の世では厨二病とでも呼ぶのか? 正確には、サブカルチャー症候群という単語になる。君はだからサンタになろうとしている」
「ご無礼千万は覚悟の上で質問させて頂きます!! あなたはいったい……」
誰なんだ、こいつは。本当に何者なんだ……。
「自己紹介が遅れたね。我が名はニコラス。君たちの世の中では『サタン』と言った方が響きがいかな。偉大なる『物欲』を象徴する悪魔であり、初代サンタクロースと言おう」
悪魔…? あの魂とか狩っている奴? 全身を黒色のタイツを着ていて、槍を構えていて、小さい翼が生えている…あれ?
「私がサンタクロースになったきっかけは、魔王である仕事のいっかんだった。それが今のクリスマスの原点だ。悪魔の世界は全てが『取引』によって決まる。対等な条件の中で、狂い咲き誇る人間の狂乱を助長するが我が役目。本来はワシを祝う祭りだったんじゃがな」
おかしい。悪魔の精神回路なんぞ知ったことではない。サンタクロースの情報だけで精一杯だ、だからこそ今の貰った情報だけでは理解不能なのだ。クリスマスは子供たちに無償で玩具が届くイベントだ。ギブアンドテイクが成り立っていない事が前提なのだ。魔王の仕事とやらに違反するんじゃないのか?
「サンタクロースが悪魔…」
「不服かね? 不思議で頭がおかしくなりそうかね」
その通りだ、はっきり言って理解が追いついていない。どうやったってこんな結果を理解できるか!! 馬鹿にしている気しかしない。
「だが残念ながら事実だ。私は魔王の身でありながら、毎年の12月24日に子供たちにプレゼントを贈る仕事をしているという話だよ」
どうして……、その疑問だけが残る。奴が俺の精神を見透かしていたのは、これでなんとなく分かった。奴が悪魔で俺が人間なら心象心理で適うはずがない。もし奴の言葉を全て信じるなら……。どうしてこいつがサンタクロースなのか、それだけが理解できない。
「俺が子供だというのは、もしかして……」
「君は良い素材だ、磨けば宝石となるだろう。誰かの幸せを自分の幸せと願うサンタクロースには非常に向いている。だが、どうも君は繊細だ。私のこの手で触れれれば、脆く砕け散ってしまうほどに」