見透かされている
そこには一人の老人がいた、ギーギーと音が鳴る揺れる椅子に座り、呑気に編み物をしている。俺が想像していた面接会場とはまるで違う、このシュールな部屋にたった一人で座っていた。
赤い服、白い髭、その特徴的な衣装。サンタクロースの一人か。別にこの試験会場で何人ものあの格好をしている人間を目撃しているため、そんなに驚きはしない。だが、なんだ……この得体の知れない感じは。奴だけなにか違うオーラを感じる。
「よくいらっしゃったね。どうぞ、そこの暖かい所に来なさい」
「失礼します」
まるで実家に帰省してきた孫に出会う時の爺さんみたいだ。覇気が無いと言ったら嘘になるが、まるで俺を試験しようという態度ではない。まるで老人ホームで会話の相手を任された気分だ。というか、この爺さんは……何歳だ? 100歳くらいか……いや……そんなレベルか? とにかく……こいつは他のサンタクロースとは明らかに違う。
「じゃあ面接を始めましょうかね。もっと楽にしなさいな」
「はい、お言葉に甘えて」
分からない、この爺さんの事か。人間観察には自信があった。俺はいつも挙動不審で他人にビビっている分、その副作用的に目の前の人間の心理を読む力がある。勿論、百発百中ではないが、そこそこの上等な情報になる程は。喜怒哀楽や虚偽の選別、そういう人間の心の変化を表情や態度、目線の動きなどから判断する、カウンセリング的な心理掌握の技があるのだ。
だが、この爺さんは何も感じない。まるで透明な風景のような人物だ。
「じゃあ質問しますね。どうしてあなたはサンタクロースになりたいのですか?」
当たり障りの無い質問だ、まるで俺に興味がないようにすら感じる。俺をこのサンタ適正試験の不正行為者として暴くためにこの場を用意したのではないのか?
「子供が好きだからです。子供が好きで、その役に立ちたいからこの試験を受験しました。子供たちに夢を配る仕事がしたかったからです」
どうだ、国谷。お前の言った通りの言葉を言ってやったぞ。これが正解なんだろう、これがサンタの爺いに一番に有効な言葉なんだろう。
「そうですか……」
反応が悪い、顔色で何を考えているか分からないが、どうも受けが悪いのは察しがつく。やはり俺がこの一連の迷惑行為の主犯格だと思われている。その大前提が主立って、俺の言葉が耳に入らないのだ。
「私にはあなたが子供が好きなようには見えませんが……」
そうだろうか、俺は確かにこれまでは子供が好きではなかった。だが、俺は生まれ変わった。だから……あれ? なんでだ? 順序が逆なのか?
俺は子供が好きになったのは、サンタになるためだ。だからこのおかしな状況が出来上がっている。本来は逆なのだ、子供が好きだから、サンタになるのだから。まさか俺の気持ちが見透かされている。




