忍者であった拒絶反応
アフロ……何を考えている。こいつも生き残ったメンバーの一人だ。気をつけるというなら、自分だけの身を守り、安全を確保すればいいだろう。どうして俺にアドバイスする? 罠を張っているのか? あの爪研ぎ眼鏡とグルか?
「何を考えている……、どうして俺を助けようとする? 俺が消えない限りはこの試験は合格しない。なら眼鏡と俺が潰しあった方が楽じゃないのか?」
「……あんた……これからサンタクロースになろうとする人間がそんな疑心暗鬼になっているのかい? そんな気持ちで、そんな心構えで、子供たちの元へ夢を留める仕事は務まるのかい?」
……忍者思想。確かに俺は間違っている、これは忍者同士の殺し合いじゃない、サンタの適正試験だ。俺は忍者の常識ではなく、サンタの常識に縛られるべきだ。それが分かっていない。
「……確かに、俺はサンタには向かないよ。血溜りの世界で生まれて、嘘と裏切りの世界で生きて、そこから脱出してきた。だから無理なんだ、目的のために、目先が眩むんだ。前が見えないんだよ。だってそうだろ!! 忍者だった人間が、今更に普通の人間と同じ生活が出来るはずがない!! ましてや、真っ当なサンタになんかなれるか!! 俺はサンタクロースになりたいんだよ!! もうそこしか就職先がないとか、忍者になれなかったからとかじゃなくて。俺は……もう……誰かを幸せに出来る人間になりたくなったんだ!!」
それでも疑心暗鬼が頭から消えない、忍者の頃に培った恐怖心が消えない。試験に不合格なら殺されるという条件が消えない。頭から……消えてなくならないんだ。
「……そうかい。気合いが違うって話か。引っ込み思案かと思いきや、感情錯乱の部類だったわけか。いいねぇ、子供の証だ。お前は……苦しんでいる。そして戦っている」
苦しみから逃げて生きたら人間はおしまいだ。今までの自分を全否定してまで、この場に乗り込んだのだ。痛みも絶望も覚悟していた、なのに今になって心が痛い。耐えられないと胸が叫んでいる。
「乗り越えられると思った。思ったさ!! でも今になって『痛い』んだ。忍者であった自分の部分が悲鳴をあげた。身体の拒絶反応に脳が追いついていない。苦しいよ、苦しい。でもこの痛みを乗り越えなきゃ……前がないよ」
この試験会場に来て、具合が悪いことばっかりだ。自分が消えていく気がして、消え去った後の自分が何もない気がして。
「私がサンタになりたい理由さぁ。聞きたい?」
……アフロ女が近づいてきた、一枚の写真を持って。三十名くらいの集合写真だった。ほぼ全員が子供だ。中心の中年女性だけが年をとっている。少し古い写真だな、かなりぼやけがある。
「これ、皆私の家族なんだ。真ん中の人が私たちの母親でね。ここにいる全員が親がいなくて、養護施設で育ったんだ。私もこの中にいる」




