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寝てて起きれなかった

 国谷朝芽は自分の正義感に自信を持っている。だから自分が試験官としてカンニングを見過ごすという失態を犯しているとなど、思うはずがないのだ。幻術や催眠術は自意識が高く、主張が多い人間ほど深く陥りやすい。騙されているという自覚など、まるで出来ないのだ。


 「すまないが……、あの部屋に監視カメラとかないか? それを確認してくれれば、ちゃんと発覚すると思うのだが」


 「えぇ~? そんなの分からないよ」


 そうだよな~。俺みたいな闇に紛れて生きている人間か、警備会社でもなければ、監視カメラの設置場所なんぞ、把握しているはずがないんだ。そんな事は承知の事実だろう。


 「まあでも聞いてみようか? お爺様に。もしかしたら、設置されているかも。それが分かったら不正が発覚するかもしれないんでしょ?」


 「あぁ、よろしく頼む」


 俺の真剣さがようやく伝わったのか、国谷も少し不安そうな顔をしてきた。実際に俺が嘘を言っているのではないので、分かってくれるとは思っていたが。


 さて、肝心の実行犯だが。きっと、俺以上に焦りを抱えているんじゃないのだろうか。だって、奴は俺が忍者である事を先に知っているはずだ。だから、俺を目撃した瞬間に、自分のこれからする不正がバレル可能性を揶揄するのでは。俺が試験官の一人とパイプがあることまでは、知らないと思うが。


 「盛り上がっているね~」


 この女性の声……不抜けたダラダラした感じ。どうもやる気を微塵も感じさせない身のこなし。……美橋及火だ。玩具メーカーからの天下りでサンタに抜擢された挙句、試験をパス出来る権利を持っている。二次試験には姿を現さなかったが。


 「お前、試験よかったのかよ」


 「えぇ、朝起きれなかった」


 寝坊か!! そんな理由で筆記試験を受けなかったのか!? 良いご身分ですね、本当に羨ましいです。こっちの絶望感も知らないで。


 「美橋及火さん。一次試験、ご苦労様でした。お受けしなくてもよかったのに」


 「いいや、この試験が正当な継承儀式なら、喜んで私も参加したんだけどね。今年はどうも……不穏な空気が漂っているから。ちょっと途中退場して試験の外側から眺めたくなっちゃった」


 ただの寝坊だろうが!? 何を格好つけている。つーか、もうサンタの世界でポジションを画一させているのかよ。あの国谷が試験を受けない事をよしとしているし。もう、真面目なのか、真面目じゃないのか。


 「お前さぁ、一次試験の時にあのパソコン爪研ぎ野郎と接触したんだろう。橇を奪われたとか言っていたが、なにか暗示をかけられたんじゃないか?」


 催眠術を使って橇を奪った可能性は極めて高い。忍者は卑怯、卑劣がモットーだからな。国谷の横取り事件もその手を使ったんじゃないか。


 「ゴメン、よく覚えてないんだ」


 それこそが、幻術の恐ろしいところだ。洗脳をした後は後遺症を残さないように、記憶が蘇らないように調整してあるのだ。用意周到、抜かりはない。絶対に未来の自分への負担になることはしない。きっと……奴も……。


 「で、監視カメラの件だけどさ。その前に君は行ったほうがいいんじゃないかな? 試験結果が出ているよ。さっき発表された。二次試験通過者は三人だけ。君の名前は……あっただろうか?」


 三人だけ!? 馬鹿な、例年はもうちょっと合格者を出していただろう。三次試験までにたった三人なんて、異例の事態じゃないか。


 「その幻覚使いが暴れているせいかもね。記憶障害が発生しているんだ。試験官の中に頭痛を訴える者、吐き気を催すもの。目眩などの症状もある。ここの最高責任者のサンタ様が……この違和感に気がついた」

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