カンニングを目撃
こうして俺は順調に問題を解いていった。時々は、分からない問題も無かったとは言えないが、どうにか経験と勘でクリアした気がする。試験時間は速やかに過ぎていった。俺は集中力を研ぎ澄まし、何もかも悩みを忘れてその一時間に没頭した。……かに、思えた。
全ての問題を解き終わり、見直しも完了し支給された鉛筆を机の上に置いた。まだあと五分ある。これ以上の詮索は危険だ。俺は考えすぎる癖がある。ここでこれ以上の思考を巡らせる事は、自爆を意味する。これで筆を置いて、試験終了を待つべきと判断した。これでどうにかなるだろう。
さて、カンニングとは思われない程度に他の連中の観察でもしておくか。これは単なる興味本意だが、最終試験に挑む連中が分かるかもしれない。
顔つきを見渡してみる。すると試験会場の前に、あの玩具メーカーで天下りしてきたとか言っていた女、美橋及火がなんか眠そうな顔をして佇んでいる。あやつ……まさか。試験自体を途中放棄しやがったな!! 自分はもう無条件に合格にしてもらえるから。初めから試験など潜り込む必要すらなかったのだろうが、やつめ。まさか、試験を受ける事を止めるとは。
ライバルが一人減ってくれるのはありがたいが、奴の『自分が受かったら、合格者を出さない』という発言がなんか心残りだ。
「全く馬鹿にしやがって」
だが、ここで声を大にして発言するわけにもいかない。奴の事はもう忘れよう。
他にはあの金髪、ありゃダメだ。ここでドロップだな。頭を抱えたまま、ピクリとも動かない。これでもかという程に、脂汗が垂れている。いくら暖房が入って快適な空間とはいえ、こんな極寒の地で、汗をかく羽目になるとは、南無三。お前の気持ちは俺が引き継ぐぜ。あと、同じような理由で、あのトナカイコスプレイヤーも駄目だな。後ろ姿しか見えないが、鉛筆が全く動かない。必死に解答用紙に食らいついている様子から、きっと満足に解答できてないな。
俺の座っている席は後ろから二番目だ。最後の列に座っているアフロ女などの奴等は分からないが……あの爪研ぎ野郎はよく見える。これは……まさか。
カンニング??
「おい、あれってカンニングじゃないか」
机の上にパソコンを堂々と置いて、それをガッツリ利用しながら、問題を解いているのだ。なんだあれは? あんな真似が許されるのか? 腐っても試験だぞ。そんな反則が許されるなら、試験なんか意味がないじゃないか。試験管どもはあれだけ散らばっておきながら、なにをしていやがる。
駄目だろう、流石に。これは……。声に出して言うか。いや、それは駄目だ。俺もカンニングの疑いをかけられるかもしれない。俺の合格も取り消される恐れがある。
「だが、異様すぎる。おかしい、どうしてこんな真似が許されているんだ?」
まさか……洗脳術……幻覚? 奴は……忍者?




