赤鼻のトナカイ
このままでいいのか、俺は忍者だ。桜台制覇様に使えている使用人だ。外との通信がバレて叱られるのはどうでもいい。だが、俺はこんな真似をして合格してもいいのか。
「やめてください、実力だけでちゃんと合格します」
「おや? 忍者がなにを言っている?」
「もう忍者じゃありません、俺はサンタクロースになりたいんです。いや、サンタにならなければなりません。こんな真似をして合格しても、意味がないんです」
試験とは『振り落とし』の意味がある。だが、それだけではないのも、事実だろう。試験とは俺がサンタになるに相応しい人間であるという事を証明する為の儀式。定員数が決まっていようが関係ない。例えその一人に残ったとしても、サンタとしての実力を有していなければ意味がない。
「お手は煩わせません。作戦に不備など起こさせません。だから……『信頼』してください」
……分かっている、あの人には替えの人材などいくらでもいる。トカゲの尻尾きりのように、いくらでも替えがいる。だが、今回の試験には替えはいない。俺が合格しない事には、あの人は来年からのプレゼントを受け取れない。年齢がオーバーしていまうから。この試験に賭けている、この試験が最後の砦なのだから。
「たまたま忍者試験で知り合ったロリコンを信じろと。君と僕との信頼はそんなに深い物じゃないだろう。君はたった今、忍者のやり口を否定した、そんな奴の『忍者は主に忠実です』を信じられると思うかい?」
……分かっている、理論的に間違っているのは俺だ。極論的に言えば、俺が言っていることは、所詮は精神論なのだ。だから精神論で勝率を上げる。
「あなたを愛しています」
…………言った、こんな薄っぺらい、ゴミみたいな言葉を言った。
「だから頑張ります」
一方的に回線を切った、俺はきっとこのサンタ試験を合格するために、真の『子供が大好きな人間』になろうとしている。きっと、この試験の狭間にそれが覚醒するはずなんだ。精神異常者による圧倒的な集中力。これが武器になるならば、緊張も死への恐怖も吹っ飛ぶだろう。
「そうだ、俺は制覇様が好きだから……戦うんだ。子供が好きだから、サンタクロースになるんだ」
きっとあの人は俺が忍者としての鍛錬を積んできたから、俺を推薦したのではない。俺がサンタに本気でなろうとしているから、俺を送り込んだんだ。
★
試験が開始した、結果から言おう。俺の予想通り、桜台制覇様の用意してくれた試験のリサーチは物の見事の間違っていた、いや、初めから俺の緊張感を解すために、用意したサプライズだろう。俺が緊張でガチガチになっているのは知っていたはずだ。通信機が仕込めるなら、盗聴器も仕込んであるだろうからな。
「なにが歴史問題だよ。全然違うじゃないか」
{第一問:クリスマスソングの『赤鼻のトナカイ』に登場する赤い鼻のトナカイの名前を以下の選択肢から選びなさい。1:プランサー 2:ドナー 3:ヴィクセン 4:ルドルフ}
これが実践でどう役にたつって言うんだ!? 落ち着け、試験問題など大半が生活の中に役に立たない事など、全ての試験に共通する事だろう。しかし、サンタの名前はおろか、トナカイの名前を質問に出してくるとは。こんな仕打ちがアリなのだろうか。わ、分からねぇ。考えて分かる問題かよ……。
これはきっと暗記問題だ、考えてトナカイの名前が思い出せるものか。予習していない以上は、思い出すことなどないだろう。ここは……きっぱり諦めて次の問題へ……。いや待て、ヒントなのか……イラストがある。




