カンニングの指示
現場の空気に流されたらいけない、忍者の任務によってイレギュラーなど日常茶飯事だ。いちいち困っていては拉致があかない。想定外の事態でも、平常心を保たなくては。今回は筆記試験だ、誰の協力もない、頼れるのは自分の実力だけだ。
「マヤカシだ、馬鹿は気にするな。今回は筆記試験だ。試験管が周囲を見張っているなかで、妨害行為は叶わない。俺が俺の戦いをするだけだ」
集中力を吸い取られるな、手を振って応援してくれている国谷の事も無視しろ。金髪が闘士を燃やして、腕を頭の後ろに回して、さも筋トレのような変なポーズを取っているが無視しろ。一次試験に出会った美橋及火の姿が見えないが、気にするな。俺は俺の事を必死にするんだ。
「さぁ、いつでも掛かって来やがれ」
この試験のために、かなりの時間を費やし試験勉強をしてきた。それだけはちゃんと自信の源として、俺の脳内に残っている。努力は嘘をつかない。そうだろう。
と、自分の精神を落ち着けるために、マイナーな台詞を頭のなかでリピートしていると………、胸元からなにか音声が………、あれ? なにこれ?
「あーあーあー、聞こえるかね。私だ、桜台制覇だ。君の必勝祈願として君の衣服の全てに発信機を仕込ませて貰った」
必勝祈願という言い回しは絶対に嘘だとして、これは……嫌な気が。
「おっと、この試験は盗聴や通信機のたぐいは禁止されているよね。サンタクロースは秘密主義が理由だろうね、当然の処置だ。だが生憎私はそういう物が大嫌いな性分でね。私に隠し事など許されない」
格好を付けているところ悪いのだが、俺が外部の人間と通話しているなんてバレたら問答無用で試験を受ける資格を失うのだが。……なんて事を喋って分かってくれる人じゃない、だってあの人は『我が儘』だから。盗聴がバレルなんて忍者の恥だ、ここは俺はどうにかしよう。慌てて不自然じゃない体制を取り繕った。
「さて、君に今から試験内容を伝える。今、全ての内容を入手した」
…………えぇ、なんだって!?
「さて、第一問だが、問題は『サンタクロース発祥の地』の問題だ。歴史問題は鉄板だから君もそれなりに知識はあるだろうが、こちらに任せ給え。さて、問題は……」
いやいやいやいや、これ絶対にダメだろ。いや、確かに俺はこの試験に命がかかっている、他者の補助があるなら、何にでも縋りたい気分だが、そんな事をしたって俺は……。
「おや、返事がない。どうやら正義感に血迷ったかな。君は忍者だろう。下手なプライドは持っていない。カンニングを卑怯なんて真似が許せないなんて、甘っちょろい事は言わないよね」
勿論だ、俺は忍者として他者の目を欺くような修行をしてきた。まさに俺が理想とする勝利の架橋だ。
「私が君を選んだのは、小細工に向いているから、ただそれ一択だ。拷問して少量の記憶を定着するのは簡単だ。死へと追い詰めて、試験の一つや二つを受けさせるのも簡単だ」
カンニングを完璧に遂行するために、俺を受けさせたのか。あの人らしい計算だ、俺じゃなきゃいけない理由があったから、俺を優先したのだ。
「時間がないから解説は省こう。さぁ、今からマークシートの番号を言おう」