これまでの後悔
橇は思いもよらず、すぐに二つ見つかった。どうやら俺達が無駄なやり取りをしているうちに結構な数の受験者が合格していた。サーカスアフロ女や、及火から橇を奪ったあのパソコン爪砥眼鏡。その他にも五、六人が既に一時試験を合格したという。皆、使い終わった橇を雪に中に隠すなんて姑息な真似をせずに、ちゃんと元あった場所に返していた。アフロなんて橇が無くて困っていた俺達に事情も真面に聞かずに手渡して、使い終わった橇を貸してくれた。ただの親切心で。
俺は忍者として育てられてきた、肉体的には勿論だが、精神的にもだ。
忍者とは卑怯、卑劣が当たり前。反則行為が上等手段。
犠牲が多かろうと、確実性の高い可能性を選ぶ。自分の正体を絶対に晒してはいけない。もしその恐れが発生した場合は、速やかに責任を取り自分の命を自分で断たなくてはならない。
「分かっている、俺は狂っているんだ。俺の精神の方が間違っているんだ」
おっさんと及火が橇の練習をしている風景を眺めながら、勝手にそう思い当っていた。俺は忍者じゃなくなった、だが俺は一般人の変わらない訳ではない。忍者としての能力も精神も決して消えはしないし、俺は一生忍者モドキとしての汚名を背負って生きていなかくてはならない。
問題は忍者じゃなくなった俺の精神だ。俺は今までの教育により忍者的な思考しか持ち合わせてはいない。忍者である俺しか存在しないのだ。
せめて自分自身の存在理由だけでも埋めようとした。だから俺は制覇様に命令されるまでもなく、自分の意思でサンタクロースになりたいと思った。だが、根本的に俺の精神がサンタの心になり切れていない。それどころか、一般的な思想すらも持ち合わせていないのだ。
だから心理戦など得意でもないのに、深読みする、他人を行動を悪いように考える。人の言葉を中途半端にしか信じられない。目先の利益に囚われて、必要以上の犠牲を生み出す。
忍者の試験に不合格だったのは、俺が忍者として足りうる素質が無かったからだ、だから始めから諦めれば良かった物を、俺は下らない思想だけ塗り固めてしまった。俺の人生に残ったのは、相対的に見てマイナスばっかりだ。
「また変なこと考えているでしょ」
「…………国谷朝芽」
「何かまた嫌なことでもあったの?」
まるで相談役かのように颯爽と現れやがったが、今は少し一人で静かにして欲しかった。今俺がやっているのは、何も生まない後悔だ。真面目に生きている人からみれば、下らない時間の使い方なのだろうが、それでも俺は項垂れたかった。