玩具メーカー
合格する気があるのか、ないのか、ないのかはっきりしない。
「自己紹介がまだだったな。霧隠三太という。よろしく」
「美橋及火。およびでいいよ」
随分とそっけなく返事を返された。俺が気に食わないのだろうか、まあ自分が合格したからって他人の受験に協力しようとする奴など気に入らないのは分かるし、作戦に対してケチを付けられたのは、気分が悪かっただろう。
「とにかく俺が橇をどこかから貰ってくるから、期待しないで待っていてくれよ」
「だからそこまで迷惑かけられないって、一緒に行く」
と、二人で歩き始めた。その後ろから大声で『置いてかないで~』と叫びながら、金髪マッスルが追っかけてきた。
★
「私の家、玩具メーカーなの」
三人で施設に沿って雪道を歩き始めてから、俺達三人の中に産まれていた沈黙を及火が止めてくれた。
「私が今回、サンタになろうと思ったのは親のコネ。サンタクロースのトップと私の親が知り合いだ、って言うのがコネの理由」
コネ? どういうことだ、サンタの試験にコネ何てあったのか。そりゃ日本中に玩具を配るには、どうやって材料を調達しているのだろうかと、思ったこともあったが、まさか内側で繋がっていたとは。確かに少し考えればすぐに分かることかも知れない。
「勿論、私はサンタクロースになりたいと思っている。でも資格試験に受かりたいとは思っていない。私の合格は既に決まっているから」
「試験に受かりたいと思っていないって、まるで試験に合格しなくても、サンタになることが保障されているみたいな言い方じゃねーか」
「その通り、つまり私は今回の試験を取り敢えず受けているだけで、ここで脱落しても何の問題も無いってこと。さすがに試験まで受けずにサンタになるのは気が引けたから、視察程度の感覚でこの試験に参加しているの」
じゃあ俺のさっきまでの会話は余計なお節介も甚だしい、ただの迷惑な押し付けだったという訳か。…………ちょっと待て。
「おい、確かこの試験って一人しか合格しないんじゃ」
「大丈夫、私はカウントされないは。ちゃんと私がこの試験の中で不合格になれば、問題なくポストは一つ空くよ。私が脱落すればの話だけどね」
つまり、ここにいる美橋及火が合格してしまえば、折角二人合格出来たかもしれないチャンスが消えて無くなるという訳か。
「おいおい、じゃあ俺だけ仲間外れかよ」
金髪のおっさんがそう叫んだ。
「じゃあおじさんの橇を探しに行こうか。もしかしたら、もう誰か合格しているかもしれないし。待ち伏せ作戦よりかは、可能性があるかもね」
及火がそう言ったが、ちょっと待て。確かお前があの金髪マッスルに待ち伏せ作戦を提唱したんだろうが。……まさか自分の真似をして雪の中に潜る奴の姿を楽しんで……考えすぎだろうか。ただおっさんが、彼女の作戦に便乗しただけだろう。




