待ち構えるトラップ
煙突から這い出た俺を朝芽は本当に待っていてくれた。
「おい、本当に待っていてくれたのか」
「当たり前でしょ、勝負なのだから。私はズルとか卑怯とか嫌いなの」
ふっふっふ、単なる真っ当な驕りか。名前を教えたり、約束を守ったり、この女は忍者として技術は一流だとしても、基礎的なあり方が三流だな。忍者は卑怯、卑劣、残忍が当たり前。情など必要ない、ただの殺人道具として、その生き様を完遂する。お前は俺より技術は高い、だが忍者としての総合的素質は俺が上かもしれない。
「じゃあ、行きましょうか。子供部屋がある場所を探さなきゃ」
この期に及んでまだ演技か、もう見切っている。
と、その時である。
「ううう、誰かいるんですか?」
明らかな少女の声。俺と朝芽は咄嗟に壁際に隠れ、身を潜めた。
間違いない、桜台の娘だ。熊の柄のパジャマを着ていて、眠そうに目をこすっている。トイレだろうか、こんな真夜中に廊下を徘徊なんて。
「……サンタさん、まだかなぁ?」
その一言だけ残すと、幸運なことに俺達のいる逆方向にとぼとぼ歩いていった。
「焦った、いきなり任務失敗かと思ったぜ」
俺が冷や汗を拭っていると、朝芽が顎に手を当てて、考える人のポーズを取っている。どうしたというのだ?
「……まずいわね、これは非常にまずい。あれはきっと、サンタの登場を期待して夜更かししている感じだわ」
何を真顔で言っているのだろうか、確かに娘に素顔をバレルのはまずいが、もう過ぎ去ったことだから、逆方向から探索を続ければいいだろうが。本当に設定通りにあの娘に会いに行くつもりだろうか、いい加減、お互い本性を語らないと二人とも他のメンバーに先を越されるぞ。
「それより……どう? ロリコンから見て、あの子は」
「え?」
何その不意打ち、ビックリしたぁ。まだその設定を繋げねばならんのか。本物のロリコンじゃない俺にとって、幼女のパジャマ姿の評価なんて出来る訳がないだろう、無茶苦茶だ。仕方ない、バレルの覚悟で言うしかない。
「絶景だ、惚れ惚れするぜ。特にあの子供らしさ溢れる柄に、体のラインが非常にマッチしている。さらにあの『眠い』ことを表現する目の下を擦る仕草が、また何とも俺のロリコン魂を燃え上がらせ、保護欲をかきたてるぜ」
「気色悪い」
お前がやれって言ったから、やった訳だろうが!!
「まあいいわ。後を追いましょうか。部屋に帰って、寝静まった隙にプレゼントを置くわ」
どこまでサンタクロースになりきるつもりだよ、気合い入れ過ぎだろう。もう付き合ってられない、しかしここで俺が忍者だって言えば、下手したら俺の命が危ない。苦汁の決断だが、ここは奴の言う通り従って、俺も後を追うしかないな。他の奴が任務を完了しないことを祈りつつ、素直に付いていく俺であった。