コミュニケーション
「別にいいよ、あれは私があの人にあげた物だから」
そっけない顔をして横を向いた。
「でも脅迫されて奪われたんだろ。じゃあ別に取り返しても問題無いだろ」
「別にいいって。私は橇なんかいらないよ。この待ち伏せ作戦さえあれば」
どうしてそんなに、その馬鹿みたいな作戦にそれほどまでの自信を持っているのだろうか。
「それより、あなた。随分と人の心配しているけど、自分は大丈夫なの?」
「あぁ、俺はもう一次試験に合格した。だから俺のことは気にしなくていいよ」
この言葉を聞くと、驚いたような表情をした。まあ俺みたいな中途半端に影が薄いような野郎が、この短時間で合格したと聞いては非常に癪だろう。切り出さない限り、言いたくなかったのだが。
と、このタイミングであの金髪マッスルが雪の中から姿を現した。
「橇無しで、待ち伏せ作戦も使わないで、どうやって合格したんだよ、兄ちゃん!!」
「そりゃあ、持参品で。俺は実は忍者なんだ、今は資格を失って、ただの情けない駄目人間だけど。凧って知っているか? あの正月とかに空に糸を巻いて飛ばす奴。俺はそれに自分自身の体を括り付けて、トナカイの角にワイヤーを引っ掛けて滑空したんだ。あとは、ワイヤーを巻き付けてトナカイに無理矢理近づいて、背中に乗っかったんだ」
「なんだよ、良い物持っているじゃねーか。それを貸してくれよ、兄ちゃん」
確かに貸してあげたい気持ちもあるが、やはりあれは初心者には難しい代物だ。危険性から考えて初心者には貸せない。しかし、あれだけ偉そうなことを言ってしまったからには、何かしてあげたい。
「別にいいよ、君が忍者かどうかは知らないけど、自分の私物をそう簡単に他人には貸せないよね。こっちも迷惑はかけたくないし」
気まずい顔を察してくれたのか、自分から諦めてくれた。迷惑か、逆に俺がこうやって話掛けていることが迷惑になっているかも知れない。まあ、待ち伏せ作戦なんてやっていることから、時間的な危機感はないのかもしれないが。
「やっぱり、その問題の眼鏡から橇を奪い返そう。その方がいいよ。女の子一人じゃ無理かもしれないけど、忍者モドキの俺とおっさんがいれば、どうにか力で負けることはないだろ。それに俺には試験官に知り合いがいるんだ、そいつに同席して貰えば、試験官の前で堂々と武器を出して脅すなんて真似は出来ないだろう」
理由は分からないが、俺の意見に反対なのだろう。とうとう黙ったまま下を向いて、黙り込んでしまった。どうやら俺にはコミュニケーション能力が欠けるらしい。だが、この少女。どうも試験に対し消極的である。




