待ち伏せ作戦
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俺は一次試験に合格した。気にしていた試験官の評価に対しての問題もないようで、俺は残りの試験時間を他の受験者を視察することにした。国谷はまだ試験の最中なので俺と共に行動を共にする訳にもいかないので、どこかへ行ってしまった。
試験開始前にある程度、一時間程度の時間を使って目視していたが、全員を確認したとは言い難い。とにかく今は出来るだけ情報を得ないと。
……というか、俺の他にまだ合格者がいないということは、これからの時間でどんどん合格者が現れるだろう。
「つーか、他の合格しそうな奴の邪魔がしたい……」
そう、俺は忍者なのである、卑怯卑劣は当たり前、残虐非道がモットーの暗殺家集団だ。まあ俺は正式に忍者ではないのだが。ポリシーはそんなに変わっていない。せっかく一番で合格したのだ、このチャンスを最大限まで生かしたい。
一次試験の突破の報告を制覇様にお伝えするのは試験後にするとして、今はとにかく他の受験者達の姿を見ておこう。
まず、目に写ったのだあの金髪だ。さすがに学習したのか、真正面から挑まずに不意打ちを狙っている。……いや、やっぱりあいつは馬鹿だ。だって奴の隠れている場所は、地面の中というか雪の中なのだから。何故、俺が雪の中にいる人間に気付けたかと言うと、俺が忍者もどきだからという訳ではなく、平な道のりで不自然な出っ張りが浮き出ていたからである。隠れるなら、完璧に隠れろよ。
「おっさん、何やってんの?」
「おう、さっきの餓鬼か。俺は今、待ち伏せ作戦をしているんだぜ。空に浮いていなく、ここを通り掛かったトナカイを背後から襲うのだ」
「待ち伏せって、そんな雪の中じゃ寒いでしょう」
「構わん、合格する為ならば」
後で絶対に風邪をひくな、あと二日も試験は残っているのに、体調を崩す真似をして大丈夫なのだろうか。いや仮に、待ち伏せでトナカイの乗馬に成功したとしても、それのどこにサンタらしさの要素があるのだろうか。と、あんな合格の仕方をした俺が言える立場ではないのである。これもサンタの個性の一つだろうか、ただ馬鹿なだけな気がするのだが。
「いやぁ、この作戦なら完璧だ。その内にトナカイがやって来るだろう」
いや、来ない可能性を考慮して諦めろよ、その作戦。
「おっさん、どうやったらその馬鹿みたいな作戦を思いついたんだよ」
「いや、そこの御嬢さんから教えて貰った」
そのおっさんの言葉を聞き、少々辺りを見渡してみると、そこにはもう一つ、雪の中に不自然に出っ張りが出現していた。……おっさんよりひどい隠れ方だ。何というか丸見えだ。服の一部が……そこにいることが、もう見えてしまっている。
「おい、そこの奴。お前がこのふざけた作戦の立案者か。こんな方法で空飛ぶトナカイが捕まる訳がないだろう。目を覚ませ!!」
そう言うと、すぐに小さな雪山は崩壊し、そこから一人の女が姿を現した。
「明日は筆記試験で、明後日は面接試験だ。そんな自爆行為してんじゃねーよ」
……? というか、俺は何をまだ合格もしていない奴の手伝いなんぞしているのだ? あまりに奴らが馬鹿だったからか。
その女は服に付着した雪を両手で払い除けると、俺の目をギロっと睨んだ。
日本人でもなかったようだ、髪の色が水色で、目まで水色。服は全身黒色のセーターを羽織っている。よほど自分の作戦に自信があったのか、もしくはただ単に俺のような貧相な男の馬鹿にされたことが気に食わなかったのか、言い返してきた。
「大丈夫、私は冷え性だから」
何の関係もねーじゃねーか。