合格、しかし……
トナカイが俺を地面へ降ろしてくれた。それはもう不機嫌そうに。あまりに可哀想だったので、角に掛かったワイヤーは俺が丁寧に剥がした。
「国谷っ、俺やったよ。一次試験に合格したよ!!」
「うん、うーん……良かったね」
随分と引き摺った苦笑いだ。どうやら俺は彼女から心から称賛されていないようにみえる。まあ、あんだけサンタ設定を無視して暴走したからなぁ……。これが忍者の試験だったら完璧だった気がするのだが。いや、忍者の試験に『トナカイの背中に乗れ』なんて温い試験内容になるはずがないな。
「えっと、第一試験合格おめでとう。君が一番乗りだよ、まだ誰も合格していないの。今の曲芸、他の受験生も皆が下手に試験内容を解釈しなきゃいいけど」
一番乗りか!! これは俺の評価は良いのではないか。
…………評価。いや、待て。俺の評価って逆に……わる……。
「いや、条件を満たした以上は今回の一次試験は合格になると思う。でも、二次試験の筆記テストは関係ないにしても、最終試験の面接が……。ただでさえ一人しか受からないって決まっているのだから」
今の俺の印象は間違いなく最悪であろう。何だ、あの忍者は? と、思われているに決まっている。一人しか受からないという条件の元に、変な忍者じみた反則技を使って姑息に勝つ人材より、多少は時間が掛かってもしっかりサンタらしく合格できる奴が欲しいと思うはずだ。
一人しか合格しないなら、掟破りの反則野郎なんかいらないのだ。
「霧隠三太、今のあなたの印象は最悪よ。何故この試験を受けにきたって皆から思われているよ」
それは、あれだ。忍者だってサンタになりたいって奴だ。待て、皆から煙たがられている……これって不味くないか。同じ受験生たちは、俺のような異質な存在が目障りで仕方がないだろう。筆記試験や面接試験中に俺に直接的な妨害は無理だろうが、これから二日間も一緒に生活するのだ、細工する時間ならいくらでもある。
「いかん……この場にいる全員を敵に回してしまった……」
俺は何も考えてなかった、パニックのあまりに一番やってはいけない作戦を遂行してしまったのだ。
「国谷……これってもう一回やっちゃ駄目か。今のは取り消しても構わない。正式にどこかから橇を調達して、もう一回チャレンジする」
「……それは、私の判断では何とも言えないかな。私が最高責任者ではないから。ただの審査員の一人なだけだから。こんな異例に事態はお爺様に聞かないと分からないよ」
そうか、確かにこれは国谷では対処が難しいかもしれない。だったらその『お爺様』とやらを早く見つけて、交渉に。
と思って、ふと前を向くと、国谷が心底驚いたかのような顔をして俺の肩あたりを人差し指で向けていた。後ろに誰かいるのか、と思い振り返ると、先ほどの試験に解説をしていた、……見た目が凄く怖いサンタの格好のお爺さんが俺の後ろに突っ立ていた。間違いない、この人が最高責任者だ。
「もう来ておる。一部始終も全て見せて貰った」
この人、タダ者じゃない。忍者モドキの俺に気が付かれないように、後ろの張り付くなんて。親父や兄貴達でもそんな技術は不可能だ。




