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ワイヤーアクション

国谷の引き攣った顔の理由は分かる。だってこれはサンタの資格試験だ、それを課題の内容だけを考えて、サンタらしいことは一切せず、忍者の力だけで行なおうとしているのだ。そりゃあ、試験官の心境としては気まずいだろう。


 だが、橇を手に入れられなかった俺に、そんなこと細かいことを気にする余裕は微塵もない。ただ全力で課題をクリアするだけだ。


 「まあ、いいけど……。じゃあ呼ぶよ」


 国谷の口笛の十秒後、早速トナカイの一体が近くの森林の中から姿を現した。さっき消火器で相手をしたトナカイよりも一回り大きい。単純に考えれば、角の間合いが増え、体が大きい分振り切ろうとする馬力も高い。だが、今の俺にとっては好都合だ、だって俺は奴が上空で動く方向へ流されるだけだし、角が大きいだけ俺のワイヤーが設置しやすくなる。


 現れた大型のトナカイは俺を真っ直ぐに見つめたまま、その場に立ち止まりピクリとも動かない。俺が何か仕掛けるのを待っているのだろう、奴は今俺の試験官だからな。


 「霧隠三太だ、いくぜ!!」


 俺は背中の凧が邪魔で動きにくいが、それでも全力で走った。まずは奴の首でも角でも何でもいいから、この特性ワイヤーを括り付ける。


 俺はこの十年間以上に及んだ期間の訓練通りにワイヤーを投げた。トナカイはすぐ判断し、身を引いて躱した……かに……みせかけた。


 「忍者もどきを舐めるな!!」

 

 ワイヤー先が網状に一瞬で分裂した、忍者が捕獲の目的で使用する鋼鉄の罠だ。その網は奴の角に引っ掛かった、前足が顔まで届かないトナカイが角にくっ付いた縄をほどける訳がない。残念だったな、もったいぶらずに上空へ逃げていればまだ回避できる可能性があったというのに。これで捕獲対象を捕まえることだけは成功した。


 ここまでは問題はあと二つ。一つはこの網は人間用に作られた物で、トナカイを包み込むだけの範囲がないのだ。所詮は角に巻き付いている状態なだけで、奴の動きの全てを封じ込めたのではない。もしかしたら縄がほどけて地面に落ちてしまうかもしれない。結構、深く食い込んだのでそれはないと信じたいが。


 もう一つは、構図的には俺が奴を捕まえているように映っているかもしれないが、これから俺が奴に振り回されるということだ。それも……上空で。


 「うっ、うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 案の定、俺は上空へ浚われた。トナカイに引っ張られていく感じで。想定の範囲内というか、これまでは完全に俺の思い通りの事が運んでいる。


 「いくぜ!! 展開しろ!!」


 俺の背中に付いていた折り畳み式の大凧は畳一畳ほどに広がった。そこには『影』という文字が書かれてある。正月に上げる凧上げごとく、俺は風に揺れながら上空へ旅立った。 

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