橇をゲットせよ
トナカイが空を飛んだ。羽で浮いている訳でもなく、何か機体を体にくっつけている訳でもなく、ただ駆け上がるように空へ歩いたのだ。
超常現象と捉えてもいいよな、これは。このトナカイがどういう理屈で空を走っているのか知らないが、人間の脳内で解決できるような理屈じゃないよな。
「ふっふっふ、驚いた? トナカイは上空にも逃げるのです」
国谷さん、俺は一回あなたのトナカイを利用した深夜のエアライドを目にしているのですよ。そりゃ驚いたのは、驚いたのだが。それよりも今考えるべきは、サンタ試験としての難易度だ。そりゃ並みの人間ではあんた空飛ぶ生き物の背中に乗るなんて不可能だ。せめて地に降りているのを狙うしかない。こりゃ、一時間くらいで終わる内容ではなかった。
「つーか、奴が降りてくるまで待たなきゃいけないのか、他の雪の上にいるトナカイを狙いに行った方がましだぜ」
「これじゃ仕方ねェ。あばよ、餓鬼!!」
そんな捨て台詞と共に、金髪マッスルは雪道を駆け抜けて行った。確かにこちらが空を飛べない以上は、あんな奴は諦めて別の奴に狙いを移すのが妥当だ。だが、果たして意味があるだろうか。不意打ちとかを狙わないかぎり結果はどのトナカイでも一緒だと思う。移動時間が無駄にかかるだけだ。
「さて、じゃあ俺に何が出来る……」
まて、サンタというのはトナカイの力だけで滑空するのだろうか。いや、トナカイはあくまで動力源であって、飛ぶ為に利用されている訳ではない。もし全てを任せるならば、今回の試験のごとくトナカイの背中に乗ってプレゼントを運べば良いのだ。だが、サンタはそんなことをしていない。
「橇だ、俺達が空を飛ぶには、空飛ぶ橇が必要だ」
施設に用意されているのではないだろうか。魔法の橇らしきものが。それさえ使いこなせば、合格できるかもしれない。
「国谷。サンタが使用する橇をレンタル出来る場所って教えてくれないか。橇に乗って奴を捕まえる」
「いいよ、ついて来て。道を教えることは試験違反じゃないから」
そう言うと、真っ直ぐ先ほどの施設の方に歩き始めた。
★
「橇だ!! って残りがねぇ!!」
考えることは皆同じだった。ただ気付くのが早いか、遅いのかというだけの。真っ先に施設に向かった連中はこれを取りに行っていたのか。俺はまんまと不合格ゾーンにいたって訳だな。現に施設の前では何人かが、橇の使い方を自主練している。
「余っている橇がねぇ。完全に出遅れた。国谷、お前専用の橇とかあったら貸して欲しいんだけど」
「そんなのないよ、私達は普段はここにあるのを使っているし、そもそもそんなのあったとしても、試験の協力はしない」
ですよねぇ……。