一次試験開始
注目すべきは具体的に提示してきた七時間という制限だろう。勝手な推論だが、この試験は試験官からの見積もりとして、一時間そこらではクリアできないと踏んでいるのだろう。トナカイの背中になんてそう簡単に乗れっこないって話なのだろうな、きっと。
「それでは、第一試験試験開始!!」
その掛け声と共に一斉に走り出した受験者達。すぐさまトナカイの群れに突進する奴。一旦、作戦を立てるかのように施設に戻る奴。その場で立ち止まって動かないのは、俺と試験開始前に目についたパソコンとにらめっこしていた奴のたった二人だ。試験が始まったというのに、雪山に座り込んで胡坐をかき、必死にキーボードを叩いている。ネットでトナカイの乗馬の仕方でも検索しているのだろうか。
「あの人は近寄りたくないなぁ」
目つきが怖い、黒く輝く眼鏡にいっそう恐怖を感じる。
「どうしたの? そんなところで立ち止まって」
不意の声に振り向くとそこには、いつぞやに見たサンタの格好をしていた国谷朝芽の姿があった。今回の試験は試験監督の誰に乗馬の光景を見せても合格である、したがって試験監督もどこにでも散らばっていいということなのか。
「私があなたの監督をしてあげる。ヒントとかは教えてあげられないけど、審査はちゃんとしてあげるから」
まあ、これは単純にありがたいな。国谷は試験にのっとり俺の乗馬に対して何の協力もしてくれないだろうが、知り合いが受験者ということで少し寛容に審査をしてくれるかもしれない。例えば背中ではなく、首の近くに乗ったとしても許可してくれる気がする。何より奴は俺にこの試験を合格して欲しいと思っているはずだから。
「お前、トナカイに上に乗れって言われたら乗れるか?」
「うん、ちょっと待ってて」
国谷が口笛を吹くと、近くにいたトナカイの一匹が寄り添ってきた。
そして軽やかにジャンプすると、何事も無かったかのような乗馬の姿が完成した。思わず拍手してしまう、さすが現役のプロだとしか言えない。身体能力ならば俺だって国谷に劣っている気はしない。あの程度のジャンプなら俺にも出来る。
「よし、次は俺だ」
さっくと、合格しますか。と意気込んで国谷が飛び降りたあとすぐさまトナカイに近寄った。すると…………角で威嚇された。横に立とうとしても必死に角度をずらし、俺と正面から対峙しようとする。
「おい、ここにいるトナカイは、温厚なのばっかりじゃなかったのか。敵意むき出しじゃねぇか。初対面からこんなに嫌われるとは思わなかったぞ」
すると、国谷はクスクスと笑いだす。
「そりゃ、トナカイだって立派な貴方たちの試験官だもの。そう簡単には受験者を背中に乗せてはあげないよ」
そういう設定だったのか…………。




