一人しか合格しない
合格者は一人、つまり俺はこの場にいる誰にもサンタとして劣ってはいけない、俺はその合格者の一人にならなくてはならない。
いや、そんなことここにいる全員が心の中に思い描いていることだろう。せいぜい誰かを合格させる為に潜入している捨石目的の奴とか、興味本位で来ている奴くらいだろう。まあそんな野郎はごく少数だろうが。
「では早速一次試験を開始いたします。一次試験会場へと移動しますので、どうぞ他の試験官の誘導に従いご移動を宜しくお願いします」
ぞろぞろと集団が動き始めた。今からどこへ向かうというのだろう、試験の概要を説明すると言っていたが、結局試験の内容までは語らなかった。いささか説明が不十分である気がしている。まあ一次試験を通過できない奴が、二次試験の内容を知る必要すらないという理屈なんだろうが。
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一次試験は実技、つまるところ一番実践的なサンタとしての『忍び込む力』を計ることになる。これだけには自信がある、俺は人生のほぼ全てを不法侵入の技術に注ぎ込んできた。そこら辺の素人に負ける道理はない。
だが奴らも仮にサンタを志願している連中だ、俺のような特別な訓練を受けた奴もいるかもしれない。両親がサンタで自分もサンタを目指しているなんて奴もいるだろう、俺だけが優位な立場だと必ずしも言えない。
正直、この実技試験は真ん中か最後が良かった。筆記や面接で不合格になればそれまでなのだが、今回の実技は俺の中で一番自信のあった競技だ。だが、俺が無暗に忍者としての技術を誇示したら、他の志願者の中で目立つ存在となる、大勢に集中的に目を付けられるのは、不正行為をしにくくなるし、なにより俺を率先的に潰しにかかる奴が出てくるかもしれない。そういう意味でも『一人しか合格しない』という条件は俺にとって最悪だ。
「実技試験は出来るだけ目立たないようにしないと」
しかし下手に手を抜いて試験そのものを失敗する訳にもいかない、絶妙な力加減が出来るだろうか、正直今の俺の精神状態的に困難だ。目立つのを覚悟で全力で戦うしかない。
試験は野外に出た、まあ室内で何が計れることもないだろう。外に出ると同時に持参した上着を着た。それでもやはり寒い、吹き付ける雪が拷問にようだ。どんな試験内容だろうか、体力テストか、それとも実践演習か。
俺達が連れて来られたのは馬小屋のような場所だった。そこには雪山に放し飼いになっている何匹ものトナカイが。待て、これって!!
驚いた、俺とは一番関係のない試験課題だ。まさかトナカイを使った飛行テストなのか。国谷からそんな情報は聞いていない。俺は忍者志願であったが、侍志願ではない。だから馬にすら乗ったことは無い。ましてトナカイの首に縄を括って、大空を飛びまわった経験などあるはずがない。
「ではこれより一次試験の試験内容を説明します」




