プレッシャー
その後も試験開始まで一時間、多くの受験者が集まってきた。どうやらこのサンタ資格試験というのは、変に認知されていないようで、知る人ぞ知るという感じだな。どんな目的があってサンタになりたいのかは人それぞれだろうが、皆必死なのだろう。あらゆる方面から気合いの漲るオーラを感じる。
「ごめん、私はもう行かなくっちゃ。じゃあ頑張ってね、応援しているから」
「あぁ、すまない。ありがとう、必ず合格するよ」
最後に小さく手を振ると、国谷は奥の扉の方へ消えてしまった。これで完全に一人か、まあ試験なんて物に協力プレイが存在するはずがないのだが、傍に知り合いがいたというのは、何気に心強かったし安心感があった。それが急になくなり、先ほどとは種類の違う寒気さが俺を襲った。
任務の重大さ、俺の肩に乗っている責任、得体の知れない試験に対する不安、そして孤独の恐怖。俺の魂は奮い立たなかった、『失敗した時の末路』しか目に浮かばない。俺は前回の任務でこれ以上にない失態をした。今回は潜入捜査とは超苦節的に関係ない試験に合格するという任務である、つまりこのステージは俺専用の土俵ではない、完全に未知の世界との戦いだ。
プレッシャーに押し潰された、国谷がいなくなってから声が出ない。別に話し相手がいないからという理由ではなく、ただ俺が縮こまって震え上がっているだけだ。
このままじゃまずい…………、俺の命はここで儚く散るやもしれない。
その時だった、忍ばせていた無線機が鳴った。コールしたのは、我が主である桜台制覇様である。
「やあ、試験開始まであと少しというところだね、茶々を入れに電話したよ。どうせびびって声も出ない状況だろう」
……どこかで俺を監視でもしているのだろうか、俺の今の心境が読まれている。
「まったく見上げた根性だよ、そんな豆腐メンタルで良く忍者を目指したものだ。こちらまで不安になってくる」
「いえ、大丈夫です。必ずや制覇様の悲願を達成すべく、試験に合格してまいります」
「今の君にそんな言葉を言われても説得力に欠けるよ。じゃあ仕方ないから、僕が君に気合いを入れてあげよう」
一体何をする気なんだ、あのご主人様は。
数秒後、携帯電話の方にメールが届いた。そこにはモンスターキャッスルで見かけたSP達の姿と真ん中に制覇様の写る集合写真なる物だった。今度は携帯の方に通話が掛かる。
「僕なりのエールさ、君は一人じゃないというメッセージを込めたね。この写真は君の顔だけが入っていないんだ、去年取った者だからね、この任務に無事成功したら、また君も入れて写真でも取ろう。どんな汚い手を使っても構わない、必ず合格したまえ。健闘を祈る」
二話終了




