サンタ劇場
「メリークリスマス」
俺のすぐ近くに舞い降りたそいつは、あの大きな白い袋を橇から持ち上げると、俺にこう言った。
「えっと? どちら様?」
俺の台詞だよ!! お前こそ何者なんだよ!!
と、言おうと思ったが一度止まった。こいつはまさか俺と同じ忍者なのではないか?
俺だって現代っ子だ、『サンタクロース』なる慈善事業者爺さんの存在くらいは把握している。だが奴は確か架空の産物で、世にいるサンタは全て偽物だという噂しか聞いたことがないが。
まさか奴は今日が12月24日なことを利用して、『サンタクロース』に変身してこの任務に当たろうというのか? 何を馬鹿な、いや……違う!!
奴は天才かもしれない、だって奴は結局はサンタの格好を演出することで、合法的に侵入する経路を獲得したことになる。
俺なんて長年可愛がってきた愛犬を囮にし、こそこそここまでやって来たが……だが奴はこうも堂々と屋根まで到着しているではないか。
しかも、ご丁寧に本物のトナカイを調達してやがる、奴の任務に対する情熱は半端な物じゃない。しかも、空を飛んでやがった、自分だけを飛行させるならまだしも、かなりの重量がある他の物体までも完璧に浮かしていた。
この女は忍者である為の情熱、能力、才能、度胸、技術。全てにおいて俺を上回っている。
「……? ところで君はこの家の人じゃないよね? 何しているの? というか何その恰好」
っう!! 馬鹿な、挑発だと!!
我々はこの任務に五人のライバルがいる。そいつ等と競って蹴落とさなければならない。しかし、そんな余裕が俺にはない、さっさと桜台の首を刎ねることしか頭にない。他のメンバーの妨害を同時進行でやってのけるなんて、俺には不可能だ。しかし奴には……俺ごとき雑魚を葬る余裕が十分にあるということか。
考えろ、何か思いつけ!!
「ああね、サンタね。実は俺もサンタって設定でいこうと思っていて。ほら、この家って小さい娘さんがいただろう?」
「はいはい、で? 目的は?」
目的!? そんなの桜台の暗殺に決まっ……忍者が任務内容を漏らすなんてゲームオーバーにもほどがあるだろ!! まさか、こいつ俺を本気で落第させる気なのか。確かに俺を潰さなくては、自分も合格しないのだろうが……。
嘘でもいいから何か真っ当な理由を言うんだ。
「その女の子の保護だ!! 俺は実はこの家に怪しい侵入者が現れるという噂を聞きつけて、少女の安全を守る為に、馳せ参じたのだ!! この格好は俺のバトルスーツだ」
「え? 何なの? ロリコン!?」
「そうだ、俺は一匹のロリコンとして、この城に不法侵入しているのだ!!」
俺は後で後悔して死にそうになるくらい恥ずかしい嘘を付いていた。
それだけ任務に焦っていたことを察して欲しい。