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自分を痛ましく思うのはやめろ

 姉は自分が過酷な忍者の訓練で歪んだ精神を与えられ、今までの自分が完成したと言っていた。全否定する気はないが、的を射ているとも思わない。両親が教育を履き違えていたならば、別の場所に居場所を求めればよかったのだ。忍者という掟に縛られず、別の道を歩めばよかった。別の指導者に教わればよかった。


 制覇様が桜台則之から逃げ出したように。世界征服の道具という教育の肩書きから飛び出し、自分で自分の道を歩み出したように。そういう意味では、俺の姉と制覇様はよく似ている。


 「今更だから言うけどさ。俺だってずっとキツイ修行を味わっていたよ。確かにメニューは俺の方が楽だったけど、それが俺がお姉ちゃんより才能が無かったからなんだ。だから……」


 だから……? その言葉の後に、思考を失った。深淵を胸に秘める姉に対し、『俺もお姉ちゃんは一緒だ』とか、『キツかったのはお前だけじゃない』とか、『自分を痛ましく思うのはやめろ』とか、そんな言葉を投げつけるつもりなのか。


 それでいて、姉は……。


 「……そうね」


 腕を下ろした、持っていた小太刀を胸にしまう。納得した表情ではない。だが、胸に秘める激昂が無くなったというのか、どこか後ろめたいような、そんな空気になった。


 おそらく姉の虚脱の原因は第三者の介入という予想外の事態からだろう。俺が制覇様を救う、それか救えない。胸の中にその二択しか用意していなかったのだ。結果は違った、皆で制覇様を助けたに等しい。教育はひとりでする物ではない。全てで支え合うって築き上げていくものだ。これが姉の彷徨う迷宮を脱する出口だったのだ。


 「結局、親の気持ちなんて子供に分かるはずがないよね。それを同じ子供である弟に求めてもしょうがない。どうしてこんな簡単な事が分からないんだろう」


 「分かるんじゃないか。同じ親になった時に始めて。なにもかもが」


 ようやく姉が大人しくなった。今までの発していた殺気が失せていく。この場を侵食していた狂気が、正体不明の違和感に流されていった。


 「おねえちゃん。着ぐるみ着てたから分からなかったけど、弁当作る姿は様になっていたぞ」


 「お前こそ、似合っているよ。そのサンタクロースの服」


 そういえば、俺はサンタクロースの格好だったな。忍者の戦闘服ほどではないが、意外と通気性がいいから着心地がよく、走り回ったり激しい動きをしても問題ないのだ。さすがお爺さんが煙突を通り抜けるくらいの性能を持つだけはある。


 「なんか興が冷めた」


 そんな言葉と共に姉はビルから飛び降りるとどこかへ行ってしまった。きっと、あのサイボーグの元へでも向かったのだろう。


 きっとまだあの人が迷宮に迷い込んだままなのだろう。でも、それは悲観することではない。それがどんな迷路であれ、人間は思考があるかぎり迷い続けるのだから。でも一緒になって迷ってくれる人がいるなら、自殺なんてできないだろう。

毎回ですけど、私の小説のラスボスってこんな曖昧で終わりますよね~


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