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自分ひとりで

姉が制覇様を襲う理由は、忍者が残虐者の証という意味もあるのだが、今回の本質はそうじゃない。姉は俺の持つ愛情を、一般人的な愛情を求めている。欠片も親の愛なんて物を知らない姉だから。それを受けてきただろう俺を、姉と違って愛されてきただろう俺の自分に持っていない成長を拝見したいのだ。


 俺は制覇様を全力で守りたいと思っている。愛している。保護者的な愛になるが。だから標的は俺ではなく、制覇様に変わった。俺がどう制覇様を救うかをみるために。もしくは……俺がそれに失敗して、結局まだ思考の迷宮に迷うか。


 『愛情』とは言語化もできないし、数式化もできないけど、映像化はできるから。


 「制覇様!!」


 俺も慌てて駆け出したが、どうも短距離走で姉に勝てる自信はない。高台で佇んでいた制覇様が、ようやく振り返って走り出した。だが、制覇様の脚力じゃ逃げ切れるはずがない。このままだと……殺される。姉は俺に間に合えというのか、こんな運動能力というどうしようもない壁を越えろと。


 「さぁ、助けてみろ……」


 そんな言葉をドスのきいた声で言い放った姉。俺の頭の中に絶望的な絵が重なった。間に合わない、どうしても制覇様を守れない。


 「させるか!!」


 俺は脚力で追いつくことを諦めて、先ほどに地面に散らばせた武器を拾いに行った。もう一回鎖鎌を握ると、腕を大きく回して姉を目掛けて振り切った。できるだけ音をたてずに。これは鎌を当てて切り傷を負わせることが目的じゃない。腕に絡ませて捕縛することが目的だ。


 だが……。


 「はいはい。分かりやすい反撃だね」


 勢いを止めずに走り込みながら、体を回すようにして、左手にいつの間にかもていた小太刀で軽く弾いた。はやり生半可な攻撃じゃあの人の動きは止められない。


 このままじゃ…………。


 ★


 お姉ちゃんは制覇様の元へたどり着かなかった。その前に立ち塞がった人がいたから。

 

 「暴挙もそこまでですよ!! 殺人鬼」


 上空からの狙撃、桜台制覇を守ったのは、俺ではなくトナカイのひく橇の上に乗っている。銃を持っている国谷朝芽と美橋及火。乗組席にはもう既に轡を持ってアデライトさんが逃げられるように構えている。空から一瞬で舞い降りると制覇様の前に立ち、全員で姉を睨みつけて威圧感を出している。


 「この霧隠一式……。一度とて獲物を逃がしたことはない」


 姉は銃に萎縮するどころか、恐れることなく前に進む。威圧感を弾き返すように。場の空気を狂気で塗り替えるように。だが、さっきまでのように走ってはいない。ゆったりと一歩ずつを噛み締めるように。


 だが、その頃には俺は姉の目の前まで来ていた。


 「制覇様にこれ以上は近づくな」


 息切れを起こしてはいないが、錦野俊との交戦もあり身体的な疲れがここにきてようやく顕著に感じた。鍛えているからといって、俺の体力にも限界はある。あとどれくらいマトモな攻撃ができるだろうか。


 俺は回り込んで姉の正面に立った。できる限り睨みつけて、ケミカルライトを突き出し構える。回り込む瞬間に制覇様が橇の上に乗るのが見えた。また先ほどのような事態になっても、今度は上空に逃げてくれるだろう。


 「サンタクロースか。もし自分だけ助けられないなら、誰かが助けてくれる。信頼している人がいるか……。なるほど、これは想定外だった。三太。お前は『自分ひとりで守ろうとしている』わけじゃないんだね」


 姉がそう呟いた。

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