ゲームペースを持っていかれる
ここで姉が始めて右手を前に構えた。どうやら足を動かす素振りがない以上は、躱してカウンターか、俺の腕を掴んで反撃してくるか。俺は刃先が当たる直前まで詰め寄った。
「これは……」
一瞬の出来事だった。結論から言って俺の刃はお姉ちゃんに届かなかった。しかも難しいロジックがあった訳ではない。俺が蛍光棒で首元を狙うことを動きから逆算し、それに合わせて上体を背面反りに倒したのだ。まるで俺の必死の特攻を嘲笑うかのような、必要最低限の動きでの回避。だが、この油断は失敗だった。
俺にも意味が分からないのだが、俺の姉は棒が当たる前から後方に飛んでいたのである。そのまま落下防止の為のフェンスに体をぶつけた。網を左手で強く握り、右腕で腹部を抑えながら片目を瞑って痛みを堪えている。
なにが起こった? もし、この蛍光棒が姉に当たっていたならば、その場に倒れこむような形になるはずだ。どうして……。不思議に思いケミカルライトを覗いてみる。光が消えている?
「私のケミカルライトは衝撃波を発する効果があるのだ。まだ、開発段階で未完成品だがな」
目に見えない衝撃波……それで姉を吹っ飛ばしたのか。いくら上体を逸らそうとも、空間全てに対して広がっていく攻撃は防ぎようがない。それでいて、持ち主である俺には何の影響もない。
「なるほど。ビームサーベルじゃなくて、エネルギー装置だったか。油断したよ。ちょっと余裕を見せすぎたかな」
あんな未知数な攻撃を真正面から受けて、喋る元気があるとは……。人を殺すような威力じゃなかったにせよ、威力は目を見張るものがあった。決して姉も軽いダメージじゃなかっただろう。
「でももう二度と同じ手は喰らわない」
それはどうだろうか。俺がこのケミカルライトの電源を切らない限りは、俺にはどんな攻撃も無効だ。もし姉が接近してきたら衝撃波で払えばいい、もし飛び道具を使ってきたら波に乗せて送り返せばいい。姉の身体能力でこのオーバーテクノロジーを上回れるだろうか。
「言ったでしょ。お姉ちゃんは霧隠三太の格好良い所がみたいの。だから……常にお前は受け身の側だ。ゲームペースを持っていかれるわけにはいかないなぁ」
俺はすっと立ち上がる姉を見て、なにか思い当たることを考える。俺が受身? 何を言っているんだ……まさか。
「制覇様!! 後で追いかけるから今すぐ階段を下りて!! 俺の姉は君を必要以上に付け狙っている!!」
さっきもそのような事を言っていた。俺が受け身だというのは、その通りなのかもしれない。桜台制覇が彼女の眼光に写っている。だから、彼女を狙った攻撃をされたら、俺が適応する形で動かなくてはならない。




