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恐れを感じていない

 制覇様がこちらに棒のような物を投げた。それは極めて一般的に手に入りやすいもので、あまり日常では目にかけないものであった。アイドルライブなので見かける暗闇を照らす事のできる、あの蛍光棒と言われる物だった。


 「これは……」


 「通称『ケミカルライト』だ。電源を入れろ!! そいつで奴を叩け!!」


 光が灯った、今は早朝の時間帯で朝日に照らされているから眩いという感じはないが、それでもちゃんと色がついた事が分かった。驚異的なイメージはない。右手で取っ手を持ちながら、左手で触れてみたが、ほのかな温かさが感じられるだけで、特に何も不自然な箇所はない。


 「これでどうやって……」


 ちょっと落胆した。感動的な再開だったので嬉しさに浸っていたが、よくよく考えればこのままでは制覇様諸共もろとも、俺の姉に殺される。これじゃあ監禁から開放された意味がないじゃないか。


 「制覇様。はやく逃げて!!」


 「なにを馬鹿な。逃げるものか。はやく私の宿敵を排除せよ。……お前はもう私の部下じゃないだろうが、私の保護者だろう。ならば守ってみせよ!!」


 制覇様の漲る自信。この蛍光棒にはどこかに勝算がある。気休めでもそう思うしかない。俺の姉の想像を上回れるか極めて不安なのだが、俺は姉の圧倒的な強さよりも、制覇様の腕を信じることにした。


 「なにあれ? どこまで図々しいの、あの子? あっははははは」


 俺の姉はというと、制覇様の意味不明な自信を見て、腹を抱えて大笑いしている。軽く涙が出ているぞ。まあ確かに俺も制覇様の態度はデカすぎるとは思うけどさ。


 「大丈夫なのかよ……」


 半信半疑でも俺に他の武器がないという事実は変わらない。取り敢えず姉に向かって正面から走り込んだ。隙はない、油断はしているだろうが、本当に毅然地帯に入ったらそれもなくなるだろう。接近戦で無敵を誇る姉に対し、俺の攻撃ごときが届くだろうか。


 忍者刀を持つように持ち方を逆さに変え、首を切る構えでケミカルライトを振った。鋭さはない、当たったところで大したダメージにはならないだろう。それでも……なにか意味のある物になってくれ。


 勢いを殺さずに狙いを定める。呼吸を整えて、心拍数を安定させ、獲物を逃さないように些細な動きにも注意する。この武器には一つだけ利点があった。あまりに武器の見た目が殺傷能力ゼロなので、まるで幼稚な劇をするような気持ちになったのである。


 俺は心のどこかで肉親を殺す事への抵抗があった。だから先程は冷静な判断が出来ずに結果を先走った挙句に失敗した。だけど今は違う、心が安定している。あらゆる事に恐れを感じていない。

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