いいわけないだろうが
「いいわけがないだろうぁぁぁああああ!!」
声が轟いた。これは間違いなく桜台制覇の声である。その声はいつもの冷徹な指揮官の声ではない。小学生が言い分を認めて貰える時に放つ、あのどこからあんな音量が出ているのか分からない、あの声質だった。
「私を助けてくれんじゃなかったのか!! 私を助けに来てくれたんじゃないのか!!」
屋上の階段に続く扉。先ほどアデライトさんと美橋が駆け抜けていった場所である。そこの前に制覇様が腕を組んで、しかめっ面して、仁王立ちしていた。他のメンバーの姿は見えない。
唖然とした。口をポカンと開けて馬鹿丸出しで棒立ちする俺。さっきまで死を覚悟した人間がなんと無様な醜態だろう。どうして俺など放って逃げなかったんだ、なんて感情も沸いた。無事に助け出されたんだという結果に安堵した自分がいた。でも、それ以上に俺の意識の中でとある事を思う自分がいた。
制覇様が俺を必要としてくれている?
「このまま助かっても私は引き籠もりのままだぞ!! 学校にも行かないし、友達も作らないし、勉強もしないぞ!! それでもいいのか!!」
これでもかというくらい図々しく身勝手な台詞だった。でも、これが桜台制覇だと思った、この我が儘で自分勝手で悪ガキな制覇様に自然体を感じた。
「アメとムチ」
俺のお姉ちゃんは笑顔になって、そんな言葉を言った。
「教育の大前提。褒めてやるべし、叱るべし。私の教育と君の献身的な気持ちが……あの子の変革を生んだ。私が彼女を叱り、君が彼女を認めた。これが不気味にも相乗効果を生んだのさ。やはり現代教育は協力プレイじゃなきゃね」
なんか上手い具合にまとまった感じになっていたが、俺はそれでも俺の姉を敵対心を持って見つめられた。それでも監禁はやり過ぎだって思う。というか、自分の事情で捉えていたくせに。
「なるほど。受け継がれる愛情か。そして、威厳か。私は観察する被験者を根本的に間違えていたみたいだね。見つめるべきはやっぱり『育てられる側』のあの子だったか」
姉は項垂れるように桜台制覇を眺めた。まるで欲していた物が手に入ったような、穏やかで安らぎのある顔だった。
「なにを最後まで意味の分からないことを」
「いーや、もう心理フェイズは終了ね。じゃあ、気を取り直して殺し合おうか。おっと、その前に武器がないんだったね。おーい、桜台制覇。霧隠三太に渡すものがあるんじゃないかい?」
渡すもの?
「……まだ試作段階だ。量産化の目処が立ってから本格的に持ち出す予定だった。サンプルを腰に隠していたが……没収しなかった理由は、やはり弟との決着を予想してか。いいだろう、ここ一番でお前の予想を、私の技術が上回ってやる。受け取れ!! 霧隠三太!!」




