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私の思考を……止めて

 そんな事なのか? 俺と姉の受けてきた教育はまるで違う。俺は素人を倒す訓練で、姉は熟練者を殺す訓練だ。ただカリキュラムが違うだけだろう。まあ肉体的な部分に負担が大きい姉の教育のほうが、苦しみは大きかったと思うが。


 「才能を持っていなかったお前には分からないだろうね。私の方が内容がハードなことなんかどうでもいいんだ」


 今までのうすら笑いがどこかに消えた。俺が家族で一緒に暮らしていた時は、ここまで感情が分かりやすい人じゃなかった。いつもしかめっ面というか、鬼の仮面とかつけていた人だから。


 「実の親から『人を殺す』ことを強要される気持ちが分かる? ずっと心の中で思っていた。この人を殺すくらいなら、私が死んだほうが楽じゃないかって。まずは生きている魚の解体から。ウサギの首を刃ではねた、鳥の首を刃ではねた」


 自殺志願者。これは姉から初めて感じ取ったことじゃない。姉は何回も俺の前で『死んでやる』みたいな事を言っている。喫茶店で会った時も、死ぬ気でいるのかと本気で思ったくらいだ。美橋もそんなことを言われたと、言っていたな。


 自殺願望を持ちながらも、今まで生きているのは、この人が強靭な戦士だからという意味じゃない。この点に関しては違う。きっと、罪悪感を感じる中で、自分の咎を否定していたのだろう。『これはしかたがないんだ』と。


 だから熟慮病になった。誰よりも、緊迫して一日中、生と死の狭間を行き来していたのだから。誰よりも神に生死の意味を問いかけ続けたのだから。


 「私はそんな罪悪感の中で唯一、『怒りの矛先』を見つけた。我が両親だよ。どうして私をこんなに不幸にしたのか? 殺人を強要したのか?」


 自分の咎を押し付ける対象が、俺の姉にはまだかろうじて存在した。俺たちの両親の教育方針に対してである。『親の育て方が悪い』という奴だ。


 「だから教育に興味が沸いた。調べた、覚えた、学んだ、理解した。だから私は私の過去を教育という観点から見つめ直さなくてはならない。私の因縁である忍者という教育を」


 暗殺者を育てる教育はあまりに残酷だった。そしてその残虐性が悪い意味で裏返った。


 「見つめ直すって?」


 「私とは全く違う教育を受けた、でも教育者は一緒だった。あなたは私の極めて分かりやすいサンプル。あなたと戦えば、欠陥だらけだった私の両親の『それでもここだけはよかった』が見つかるかもしれない」


 見つめ直すとは、どうも悪い意味じゃないらしい。姉は知りたかったのだ。親の愛情という奴を。父親が齎した威厳を、母親が齎した愛情を。でも両親は霧隠一式をもう死んだ人間だと思っている。今から顔を出しても、それらしい結果は出ないだろう。それを鏡として映し出す役割は俺にしかできない。


 教育方針が違った俺なら優しさを垣間見ている可能性が高いから。あの二人から別の教育を受けているから。俺の体のなかになら愛情が詰まっているかもしれない。姉は俺など関係なかったのだ、姉のターゲットは『両親からの愛』だった。


 だから制覇様を監禁した。愛を受け継いでいるであろう俺が、真価を発揮する瞬間をみるために。


 「さぁ、私を……気づかせて。私の思考を……止めて。私のこの終わらない考えというノイズを……消して」

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