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お姉ちゃんだよ

 俺が勝てる相手じゃない。でも、この戦いで俺の中の何かが変わるかもしれない。それはきっと瞬間的な出来事だろう。きっと目には見えないで、声にも出ないで、誰にも分からないまま……訪れるのだろう。


 「監禁されているであろう場所が特定できました。手筈通りで行きます。三太君がお姉さんを引きつけている間に、私とアデライトさんで二人を救出。それが完了次第、全員で脱却という流れですね」


 俺はこくっと頷いた。意識を集中させるように、体の中にある雑念を取り払うかのように。残った感情はただひとつ、『制覇様を救うこと』。


 「……お出迎えだ」


 目を瞑って瞑想していると、アデライトさんの声が聞こえた。反射的に下の方を振り向くと、俺の姉の姿が見える。廃墟のような場所の屋上から笑顔で片手を振りながらこっちを眺めている。


 「あの……笑顔。お姉ちゃんで間違いないな」


 黒いライダースーツが朝日に浴びて神々しく光る。美しく整った黒髪がそよ風になびいた。嵐の前の静けさ。あの平和な日常に現れた狂気という名のモンスター。霧隠一式。


 「突っ込みますよ」


 俺たちがどうして俺の姉を視認できるかと言うと、それだけ推移を減らして地上に近づいていたのである。いくら一般人に見られないように上空を飛行していても、最終的には近づかなければならない。


 もうアデライトさんの透明化に魔力は必要ない。あの姉は羽虫の音で虫の種類を言い当てるほどの聴覚を持っている。『音』が消せない限り、違和感が残る限り無意味なのだ。純粋に底が尽きそうで無駄遣いできないという理由もあるが。


 「お姉ちゃん。悪いが勝手な真似はそこまでだ」


 俺は一人だけトナカイが地上に舞い降りるよりも前に橇を降りた。先制攻撃をするためである。完璧超人の姉に勝つには、その完璧を言い表す常識を破る必要がある。普通では勝てない、度を越えて常軌を逸するのだ、自らの手で。


 「お姉ちゃん!!」


 それだけ叫ぶと、俺はサンタの白い袋に詰めていた武器を袋から取り出し、それを全て姉に叩きつけた。クナイを投げ、鎖鎌を投げ、手裏剣を投げ、短刀を投げ、火薬を投げ、毒針を投げ、煙玉を投げ、最後には袋ごと投げた。


 間髪入れず連続攻撃。会話をしない、構えさせない、準備させない。彼女に隙など有り得ないのだから、とにかく手詰まりになるまで攻撃を繰り返す。姉を上回るにはこんな手段しか思いつかなかった。そして……。


 「はいはい。お姉ちゃんです。殺人鬼で、暗殺者で、忍者で。優しくて、可愛くて、綺麗で、人気者で、カウンセラーで、教育評論家な……」


 いとも簡単に完封された。


 「お姉ちゃんだよ」

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