人間は大抵が極めて脆いのだから
こいつ……目的が不純なのだ。私とあいつの中を持ち直すために自分が悪役を買っているような、そんなイメージがある。もしかしたら、そんなことではないかと思っていたのだ。
自虐で自分を可哀想に見せて、そんな自分を格好良いとか思っているなら、私は心の底からこいつを軽蔑する。人を監禁する理由にしてはあまりに自分勝手だ。こいつはきっと今まで人殺しとして生きてきたから、一般人と比べて感性がおかしいのだろう。優しさの示し方の度合いが分からないのだ。付き合わされるこっちのみにもなれという話だ。
「勝手にしろ!! お前には呆れた。兄弟仲良く戯れてくればいい」
「いやいや。私の弟と私では勝負にならないから」
確かにそうだろう。戦闘を習って生活してきたこいつと、偵察としての忍者で素人の戦闘対応しか学んでいない霧隠三太とでは、勝負にすらならないだろう。そんなことは私にもわかっている。
きっと、それでも……。
「それでも、お前の夫である金髪マッスルは敗北したのだろう。お前も同じ道をを辿るんじゃないのか?」
ハッタリだ、そんな根拠はどこにもない。そもそもあの金髪の戦闘力を私は知らないし。
「そうだね~。でも一介の大学教授を1人倒したからって、一緒にされちゃ困るなぁ。私はそんなにヤワじゃないよ~。これでも一年前とか立派な殺し屋だったのだから」
そうだな、やっぱりこいつは別格か。あいつが太刀打ちできる相手じゃないだろう。願わくばこいつが血迷って手加減することに期待するしかない。こいつが弟を救う為に行動しているならば、弟に花を持たせるようにシナリオを組んでいるはずだ。奴が全力で頑張れば、それだけで許してくれる可能性はある。
と、勝機を打算していると、あいつが声を張り上げた。
「どうして殺し屋である自分を誇れるんです!! むしろ情けないことでしょう!! あなただって悲しいはずなのに、どうしてそんなに平然と笑顔なんて取り繕うことができるんですか!!」
「う~~~ん。私は君に『拉致されている立場に人間が、どうしてそんなに命知らずの行為ができるのか?』について、言及したいところだねぇ。でも……別に誇ってはいないよ」
漫画じゃ偉そうに『暗殺者』という単語を多様するけどさ。そんなに偉いことでも、凄いことでも、格好良い言葉でもないんだ。心理面や倫理面を抜かせば、人は誰だって誰でも殺せるだろう。人間は大抵が極めて脆いのだから。神様でもない、微生物の生態進化系の一種でしかない『ヒト』に、そこまでの生死を誇れるほどのカタルシスなんてないのさ。
「だからこそ、私は……弟に会って、決着を付けなければならない」
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