俺を庇ったのか?
あの金髪はやはり浮き上がってこない。奴がエラ呼吸でもしていない限り、死んでしまっただろうな。殺人か、忍者としては無感情に雑念は切り捨てなければならないだろう。サンタクロースなら職柄で人殺しなんて御法度だな。なんか……自分でも、自分がどこの終着駅に向かっているのか分からない。
悩んでも、悩んでも、少しの答えしか得られない。どうしても心が全て満たされることはない。それでいいとは思っていない。だが、それが最善策だとは思っている。
「急ごう。まだ俺のバカ姉を止めなきゃな」
「そうですね。ですが、その前に着替えたらどうですか?」
「……そうだな」
全身が水浸し、気持ち悪くて本当に嫌だ。こんな姿で制覇様に会いに行くのもどうだろう。やっぱり、ちゃんとサンタクロースの正装である赤と白の服で行かなければならないのだ。
「おい。女性が二人もいるんだ。岩陰とかに隠れて着替えろよ」
「わかってますよ。アデライトさん」
どうも二人共落ち着いている。さすが現役のサンタクロースだ、どんな状況でも、窮地でも、慌てず騒がず驚かず…………あれ? ちょっと待て。俺はどうやって生還した? というか、どうして俺はこんなにピンピンしていられる?
背中に乗せていたパラシュートは終ぞ開けなかった。例え落下した真下が湖だったとしても、かなりのダメージは否めない。痛いとか、苦しいとか、そんなレベルの状態で片付くはずがないのだ。まさか……。
落下速度はかなりも物だった。あの金髪が計算外になるほどに、恐ろしい威力を秘めていた。水が全てを受け止められる訳ではない。それよりも水面にあのサイボーグが激突したことにより、大爆発からの火柱があがってもおかしくなかったのだ。
「あいつ……俺を庇ったのか?」
確かな記憶を辿ってみる。俺は落下した際に訓練ではしたことのない体験をした。いくら空中戦が得意と言っても、森の中とかビルの上のレベルだ、雲の上まで想定した訓練など受けていない。人間が遊園地のアトラクションで絶叫系が怖いと思うメカニズムは、人が自分では生死をコントロールできない場所で、人としての限界を超えた動きを、強制的にさせられるからである。
俺はそれを訓練により限界を下げて、生死をコントロールできる範囲まで拡張させていた。しかし、今回の案件は……さすがに対象外だったはず。つまり……俺は…………知らぬ間のうちに気絶していたんじゃないか。だって、起き上がった場所は、既に浅瀬だった。そんな場所に落下したなら死んでいるだろう。湖なので流されたということもない。
つまり錦野俊が、落下する瞬間まで俺を支えてクッションとなり、落下した後も俺を助ける為に起き上がったら地上という寝ている間も呼吸ができる場所へと移したのだ。恐らく傷ついたであろう自分の体を無理矢理に動かして。




