やっぱり現実って厳しいよな
俺と奴は真っ逆さまに地上へと墜落した。前から抱きつく形になった俺と奴は、そのまま頭を下にして、回転しながら雲をすり抜けていく。俺の体重でこいつの飛行を止められない。もしかしたら引っ張られて地上に戻されるかもしれない。もう思ったからすぐに次の手段に出る。
「お前は確かに飛行手段を備えているが、そんなに使い勝手のいい物じゃない。制覇様が作った作品じゃなくて、恐らく軍隊か何かの代物だろう、これは。だったら対処は簡単だ」
俺は奴を逃すまいと縄を引っ掛けようとするが、逆に両腕を掴まれた。両足は自由なので反撃も考えたが、この風圧の抵抗でマトモな身動きが取れない。目に見えない拘束具だ。
「ロケット噴射で君を引っ掛けたまま、橇まで持っていけばいいだけの話だろう。なにを勝ち誇っている」
奴がここまでたどり着いた時と同様に、背中に取り付けてあった小型ジェットのような物が、ガチャっといい音をして飛び出してきた。
「デスマッチと言ったが、これではお互いの条件が平等じゃないね。私が圧倒的に有利だ。君はその背中に抱えているリュックにあるパラシュートをかけて絡み合いでも提案しようと思っていたのだろうが、元から自律飛行できる私には、そんな勝負が成立するはずがないだろう」
「そうだな。じゃあこの状態で飛べるものなら飛んでみろよ」
「ふっ。二人分を持ち上げるくらい簡単だ」
奴がエンジンを起動させた。この寒さに負けじと物凄い火力の炎が巻き散る。降りかかる火の粉を間近で感じながら、自分の仮説が崩れるかもしれない恐怖を感じた。だが、はやり賭けは俺が勝ったらしい。
「漫画やアニメでは簡単に浮き上がれるのにな。やっぱり現実って厳しいよな」
この空間では重力だけが加速し続けている。浮力は微弱すぎて大したアテにはならない。極めてエネルギーを持った俺たち『物体』は、逆の向きを向いて起き上がるには相当なエネルギーが必要なことになる。
「これは……どうして……」
「推力ってのは極めて恐ろしいものなのさ。確かに静止した地面であれば、俺を担いで飛び上がることは出来ただろうが」
この状況を打破するには、俺たちが落下しているエネルギーを相殺した上で、自分たちを上へと運ぶ為のエネルギーも必要となってくる。つまりは地面からの離陸よりも2倍以上のエネルギーが必要なのだ。
「さぁ、こうしている間にも落下スピードは高まるぜ」
「さすが、一式さんの弟だ。人間の感性じゃない」
そうかもな。こんな天空からの真っ逆さまなど、大人でも泣き叫ぶか気絶する。ジェットコースター顔負けのスリルだ。死ととなり合わせ。これが忍者としてのスキルと、サンタクロースとしての平静さと、制覇様に対する情愛だ。




