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会いたかったぜ。お兄ちゃん

俺は兄弟にスペックが劣っていた。肉体は不完全で、精神は脆弱。人の生死に考えを巡らせていた。だが、俺が最も『戦闘』という仕事に向かない理由はひとつ。『観察力』が足らなかったからである。


 情報戦は大切だ、戦闘前の準備も大切だ。しかし、最も戦闘で必要とされるのは『相手の弱点』なのである。忍者は道理や信念を持たない。小手先の技で勝利する必要がある。さむらいは刀を腰で振るが、忍者は刀を手首で振る。飛び道具や煙玉を多用し、毒物を盛り感電させ、巧妙堅く殺す。それには、勝利への筋道をたてなければならない。


 こと暗殺術において戦闘能力など基本的に不必要だ。だが、それを長けているということは、暗殺者を殺せる。まさに最強の称号を手に入れているも同義なのだ。


 「空中に機内という密閉空間。まさに殺してくれって言っているようなものだな。まあ、俺は暗殺者でも忍者でもないから、本当に殺したりはしないけど。あんた達の商売道具は破壊させてもらうぜ。こっちも遊びに渡来しているんじゃないんだ」


 地上彼方ちじょうかなた遥か上空。橇から一人で命綱無しに天空へ身を放り投げた俺は、鎌の先が不安定にヘリの足に引っ掛かり、投げ出される形になった。落ちたら俺のからだはトマトみたいに潰れるだろう。そんな危機的状況の中で、俺の頭は冷静だった。こんな状況を想定した訓練を受けてきた。いわば素人との戦闘を想定した訓練。この状況にピッタリの感じだ。


 俺は鎖鎌で綱上がりをすると、ヘリコプターの足に到着する。そのまま背中に常備している光学迷彩のワイヤーを括りつける。光に紛れて接近しても視認できないが、像を上空に持ち上げても切れない優れものだ。弱点として、その強靭さ故に殺傷能力がない。ピアノ線のように首にあたっても皮膚を切れない。絞殺用には応用できるかもしれないが、鎌鼬かまいたちの構図にはならないのだ。


 「だが、この鎌の部分は別だぞ」


 俺は目を瞑り頭で思考を開始した。もうすぐ奴らは俺たちの橇に近づいてくる。あの女性アナウンサーは必ず俺たちを目の当たりにしようと、前のめりに体を傾けるはずだ。そしたら丁度いい具合に真下からでも……その五月蝿い声の元であるマイクを視認できる。目を開くとやはりその通りの構図になっていた。


 鎖鎌を投げた。絶対に女性にヒットしない角度で、そして、その奥の内部の取っ手に引っかかるように。手応えを感じた瞬間に俺が鎌を引くと鎖の部分がピンと張る。これによりアナウンサーの手首を跳ねた。


 「Ouch !」


 悲鳴が聞こえた瞬間に、俺は状態を起こして反対側のドアへと向かう。アナウンサーの握り締めていたマイクは、夜空の下へと消えていった。俺が放った片方の鎖鎌に気を取られている隙に、もう片方の入口から瞬殺する短期決戦である。棒状の足を使って、新体操選手のように一回転するとそのまま脚力を使ってドアを窓ごとぶち破った。もちろん、俺の体重と脚力で強化ガラスなど破壊できない。俺の靴底には仕込みの爆薬が備えてあった。俺の手動で動く仕組みで、しかも俺の足には影響がないように特殊な金属でできている。


 仕留めに入る。流石に爆発音が響いたのだ。その場にいた全員の注意がこちらへと向く。悲鳴と驚きがこの狭い空間を支配する。取り敢えず俺の姿を見られるわけにはいかない。煙玉を床に叩きつけ目晦ましへと入る。中のメンバーが咳き込む中で俺は遊んでなどいられない。


 一番に破壊したかった物は、後ろで構えていた黒人のディレクターが肩に担いでいるカメラだ。俺はふところから手裏剣を取り出すとカメラマンの肩と手首に放つ。彼にとっては命よりも大切な商売道具だろうが、こっちも命が掛かっている。この空間でゴーグルをつけている俺だけがしっかりと奴らの位置を把握できる。ディレクターが物を落とした瞬間に、用意していた小型パラシュートを背中につけると、俺が破壊して入ったドアから突き落とした。瞬間的にパラシュートが開く。


 今度の狙いは運転席にいる操縦士だ。何の恨みもないが……いや、恨みならある。関係者である以上は、こいつにも痛手を負う理由はあるはずだ。悲鳴をあげて運転どころじゃなくなっている運転手に近寄り、ワイヤーで一瞬にして首を絞めると、気絶するだろう一歩手前くらいで、縛りを緩めた。これで呼吸困難と全身麻痺で抵抗できまい。先ほどと同じくパラシュートをつけて、ドアから叩き落とす。


 これで二人を始末した。火薬、ワイヤー、鎖鎌、煙玉、忍者刀、手裏剣。こんなに鍛えた技術を披露できたのは、出家して初めてだったかも知れない。この空中での機動や、短期決戦の奇襲が俺の長年の修行の成果だった。


 さて、あとは二人。


 「安心しろよ。あとは俺だけだぜ。アナウンサーのお姉ちゃんなら、俺がパラシュートで脱出するように指示した。もう空の上だよ。これで……俺と前の一騎打ち。しかも、ヘリコプターが絶賛墜落中だから、デスマッチの構図が完成したわけだな」


 俺は右足で落ちていたカメラを破壊した。こいつを抱えたままこいつに脱出されると困る。この中にはサンタクロースの存在情報が入っている。こいつを公表させるわけにはいかない。やはり遠くに見えた影、最後の一人はこいつだったか。


 「それにしても、お兄ちゃんは凄いワイヤー使いだったなぁ。忍者の試験も移動手段に使っていたし、サンタの試験でもそいつでトナカイに乗っていたからなぁ」


 こいつの声はよく覚えている。俺は制覇様の下で働いていた頃のコスプレイヤー(正体はお姉ちゃん)と、もうひとりのルームメイト。初対面はサンタ資格の一次試験だった。制覇様の命令で、俺にも内緒で一緒に試験に潜り込み、散々アドバイスのような事をして途中退場。その後も、よく部屋で世間話や相談にのって貰ったりした。ワイルドなタンクトップで、稲妻のような金髪。筋肉質な体型で、目つきが悪い。そして、どこか男らしさを彷彿とさせる立ち振る舞いがある。


 「会いたかったぜ。お兄ちゃん」


 「うるせぇ、金髪マッスル」

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