罠が張り巡らされていた
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到着した。アメリカ合衆国のカリフォルニア州。気持ちは落ち着いている。危機的な状況でも、俺の心臓の鼓動は正常に作動しているようだ。パニックに陥るのは脳だけで構わない。今更忍者である自分を示す気にはならないが、覚えたスキルだけはこういう状況で役に立ちやがれ。
「そうだ、俺は落ち着いている。落ち着いて……」
「目がグルグルしてます。歯がギシギシ言ってます。全身に鳥肌がたっています。背骨が曲がっています。足が震えています。思いっきり怖がっているじゃないですか」
そうじゃない、さっきまでの太平洋を渡った無茶な海外密告に気が動転しているだけだ。何度、この吹き付ける突風に攫われると思ったか。そのまま真っ逆さま。挙句は鮫の晩餐になる。ここまでの話で怖がらない奴は人間じゃない。
「お前だって、目を瞑って一言も喋らずに蹲っていたじゃねーか」
「女の子には酷な試練でしょう。あなたと違って忍者の訓練など受けていないし、異常なまでの身体能力を持った人間でもないんですよ」
俺程度を異常な身体能力を持っている人間とは言わない。それと、俺は確かにワイヤーアクションは得意だし、それこそ戦闘向きではないとはいえ、忍者の訓練を受けてきた人間ですから、本気で復帰しようと思えば出来たかもしれないが。俺は人よりも随分とメンタルが弱い。だから結局は怖かったのだ。
「若いくせに情けない。私はあのスピードで運転までしていたんだぞ」
アデライトさんには頭が上がらない。トナカイに橇を引かせて太平洋を横断とは恐れ入る。さすが本物のサンタクロースはスキルの質が違う。素直に尊敬した。
「え? アデライトさん。魔法でトナカイを麻酔状態にいして自動操縦にしてましたよね。今さっき到着する寸前に解除してたけど」
「および。余計なことを言うんじゃないよ」
そうか、別に轡を握っていただけで運転しているわけではないのだな。まあ、尊敬しているという言葉を訂正はしないが、なんかあの人も時々抜けているよな。
「それで? どうやって監禁場所を割り出すの?」
「そんな面倒な過程はいらないよ。こっちが何も用意していないくても、あいつらが勝手に動いてくれるさ。奴らの目的は制覇様でも国谷でもない。間違いなく俺なのだから」
格好良く言ってみたものの、流石に奴らがノーリアクションだったら困る。待ち伏せされて問答無用で迎撃されても困るのだが。それにしても、先に俺に会いに来るのは、きっとお姉ちゃんじゃないだろう。偵察がてらあの金髪が……なんだ? 眩しい、目にまばゆい光が差し込んだ。ここはニューヨークじゃないんだぞ。どうしてフラシュが。
「何かが近づいてきます。なんでしょう?」
「しまった。我々の存在がバレル!! ここに来るのを想定して、待ち伏せされていたんだ!!」
アデライトさんの金切り声に、俺も唖然となった。
「Please see! ! It is a Santa Claus! ! Santa Claus who rode a reindeer in the sky, has appeared in front of us! ! "(ご覧ください!! サンタクロースです!! 空を飛ぶトナカイの乗ったサンタクロース達が、我々の前に現れました!!)」
小型のヘリにのったマスコミ、カメラマンにニュースキャスターのような女。待ち伏せされていた……? 噂を流された? しまった、攻撃なんかよりも、もっと効果的な罠が張り巡らされていた。




