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この女がどうしても嫌いだ

 目の前に霧隠一死が現れた。楽しそうな顔をして。おそらく心からの笑顔で。


 「やっほう。昨日はよく眠れた? 制覇ちゃんに朝芽ちゃん」


 本当に心配しているかのような声。本当に心配しているかのような顔。本当に心配しているかのような仕草。


 「朝食を持ってきたよ。一緒に食べよ」


 「そんな空気になっていると思うのか」


 「そうだね。こんな錆び付いた廃墟じゃまともにご飯食べる気にはならないよね。というわけで、このサンドイッチは全て私が食べるね」


 「その皿をおいてとっとと消えろ、殺人鬼。お前とは全てを話し終えた。これ以上に会話は必要ない」


 私はこの女がどうしても嫌いだ。それはこいつが害悪という意味もあるが、それ以前の私の問題だ。こいつには勝てないという劣等感が、私をむしばむ。心を侵食し、頭痛を引き起こす。意のままに操れない奴なら以前にもいた。しかし、ここまで実力の差があって、尚且つ敵対している奴は初めてだったのだ。


 「せっかく制覇ちゃんが1人じゃ寂しいだろうと思って、唯一のお友達を日本から神輿に担いで持ってきてあげたのに。随分と素っ気ない態度じゃないか。ここ最近のメンタルの弱い男子には、ツンデレキャラは受けないよ」


 お前が鉄格子と鎖で私を拘束しているから、喋りたくないんだ。誘拐しておきながら随分と態度がでかい。確かに私を助けるために、ここまで来てくれる家族はいない。地元警察もアテにならない。どうせこいつに暗殺されるに決まっている。それ以前にこの場所へ辿りつく根拠がない。


 「私との食事は嫌みたい。じゃあ朝芽ちゃん。そのサンドウィッチを食べさせてあげて」


 「どうして制覇ちゃんの腕を縛っているんですか」


 間髪を入れずにお願いに対する受け答えではない言葉が出た。彼女は本当に私の味方なのだろう。すぐに破れもしない鉄の鎖を解こうと、屈んで腕を伸ばした。


 「無駄だよ。そう簡単に解けるように作っている訳が無いだろう。君の腕が痛いだけだ」


 「じゃあ私を縛ってください。そして、制覇ちゃんを開放してあげてください」


 サンタクロースの慈愛。そして理不尽に対する自己犠牲な提案。この優しさが逆に苦しかった。私の心を惨めにした。嬉しさと虚しさが脳内で混ざり合う。


 「うん。なんの意味もないから却下。制覇ちゃんが縛られていないと意味ないから。じゃないと、あの人がこないでしょ」


 「あの人って……もしかして霧隠三太君? どうして彼をこんな外国にまで呼び出したいんです?」


 「そこまではベラベラと喋るわけにはいかないなぁ」

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