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まずは元気に登校すること

 こいつの言っていることは焼き回しに聞こえる。人間がどいつも善人で悪人だという話は霧隠一式から聞いた。それに学校に行けという話も、霧隠三太から聞いた。『友達作って世界征服』なんて発想はこいつだけだが、それでも私の心の氷河は解けない。


 「学校に行けば友達が出来るなんて、それこそ淡い幻想だろう。今の日本には私なんかデータに入れなくても、どれほどの不登校生徒がいると思っている。通っている奴等だって、仲が良いのはクラスで数人程度だろう」


 しかもその下らない絆とやらは、進級進学とやらであっさりと消え去る。業界用語で自然消滅というらしいが、私に言わせれば『その絆に形がなかった証拠』だと思う。時間と場所で消え去る程度の絆など評価に値しない。


 「小学校で築く友達など社会人になれば全てが無くなる。親の転勤、進学先の学力格差、専門分野への移転。全ての邪魔が混ざり合って絆を消し飛ばすんだ」


 だから嫌なんだ。小学校に友達つくりなんか求める大人は。意味がないとは言わない。きっと社会に出た時に、上司や同僚とうまく付き合っていく為の予行練習なのだろう。だからって、そんな前段階みたいな話で、絆という大切な物を実験用具にしていいのか? 消え去る過去に未練を持ったまま大人になるのが、現代社会の宿命なのか?


 「行きたくない。学校になんか行きたくない」


 考え方が違う奴なんか怖い。私と怒りの沸点が違う奴が怖い。私がどうてもいい言葉を大切なキーワードだと思っている奴が怖い。私にとってのガラクタを大切な宝物としている奴が怖い。理想が違う、親近感が違う、価値観が違う、趣向が違う。そんな連中が40人近くもいて、狭い空間に閉じ込められるなんて真っ平御免だ。


 「えっと……私はそんな賢いことが言いたかったんじゃなくて」


 そうだった。こいつは短絡的なお気楽人間だった。


 「だってさ。友達がつくれるのって、学校だけじゃない? 小学生が午前中にいるのは、学校しかないんだから」


 …………それだけ? 獲物がそこにしかいないから、そこに行けと? そんな単純な理由で、私を学校に行かせたいのか?


 「いいのか? 学校は勉強する為の機関だろう。友達つくる為に行くなんてしてもいいのか?」


 「勉強する為に小学校に行っている人なんて少ないと思うけど? それに『まずは元気に登校すること』が大切なんじゃない? 学校は友達をつくるところ、その考え方は正解じゃないのかもしれないけど、不正解でもないはずだよ」


 虎穴に入らずんば虎子を得ず 。恐れていたって、始まらない。目標の物が手に入れたかったら、傷を負う覚悟で前に進むしかない。引き籠っていたって始まらない。……私は……隠れていただけ? 


 「ほら? テレビでボランティアしている人とか、無条件で偉いって思うでしょ。誰かの為に何かが出来る人は無条件に偉いんだよ。そしてその人はきっと、その場を和ませている。そんな人は支配者って言ってもいいんじゃないかな。制覇ちゃんはそういう支配者になればいい。あなたならそういう支配者になれる」


 それが……サンタクロースになった人間の発想か。慈愛精神、施しを渡す、安らぎを与える、プレゼントというご褒美を渡す本当のボランティア精神。これが本当の……形のある愛。


 ★


 「いやぁ、感服したよ。さすがは現役のサンタクロース。おっしゃる言葉が違うね。でも、そう簡単に制覇ちゃんを学校には行かせないよ」


 黒髪で長髪。長身で高スタイルだが、今の彼女には気品は感じない。監獄から差し込む月明かりを浴びて真っ赤に染まるその目。血走っているという意味でない、奴はきっと特殊な機材を埋め込んでいる。獰猛な猛禽類のような、気色悪い目つき。真っ黒なライダースーツを着ていて、以前のご当地キャラのような着ぐるみシリーズの面影おもかげはどこにもない。私と国谷朝芽をここに監禁した張本人。本当なら忍者のおきてで死しているはずが、関係者を皆殺しにして生きながらえている亡霊のような奴。霧隠三太の姉にして忍者で暗殺者で大量殺人犯で、自称教育評論家。


 「霧隠一式……」

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