私が制覇ちゃんを救ってみせる
「はい、もしもし」
「…………俺だ。美橋の携帯電話から話しかけている」
声の主は霧隠三太君だった。もうそろそろ及火が霧隠三太に、お姉さんに接触した話をする頃合だろうと思っていた。そして、私にコンタクトを取るとすることも。
「えっと……なにかな」
「それが分からないお前じゃないだろ」
声はいつにもましてシビアだった。イラついているという表現は正しくない、怒り狂っているわけでもない。ただ静かに憤怒の精神を研ぎ澄ましているだけだ。
確かに私は分かっていた、こんな勝手な独断行動をすれば少なくとも三太君は怒るだろうって。私は彼の代理になったのだ。彼が心から欲していて、それでも様々な不条理で手が届かなくて、それでいて諦めかけていることを、私は横から奪ったのだから。こんな険悪な関係になっても不思議ではない。彼にとって最大の侮辱行為だろう。
「お前……俺の代わりに制覇様を説得しに行くのか?」
「そうだよ。制覇ちゃんはちょっと君の事を見下している部分があった。だから、私が言って説得しきるのがベストだと思ったんだよ」
これは私の本心だ。これでも、あの去年のクリスマスに命令を無視して規則を破り、制覇ちゃんにプレゼントを持って行ってしまったことを悔やんでいる。それによって、三太君を関係ない舞台に巻き込んでしまったことを。
「私は制覇ちゃんの友達なの。だから、私が制覇ちゃんの間違いを正しに行く。世界征服なんて私が止めてみせる。これでも私は……国谷朝芽は霧隠三太に負けず劣らずロリコンなんだよ」
まるで自慢気に言ってみた。まるで自分の心の中を悟られないように。
「俺みたいな奴に言われたくないって思うかもしれないけどさ。どうして一人で無茶したんだ。お前が思っているよりも、制覇様は危険でデリケートなんだぞ。超天才小学生科学者なんだ。そんな彼女は普通の小学生よりも不安を抱えているんだ。お前じゃ……説得しきるのは不可能だ」
分かっている。いや、初めから分かっていた。私も馬鹿じゃないんだ。桜台制覇が普通の女の子じゃないことくらい。そして、今の私の行動の……危険性くらい。及火ちゃんは私が楽観的な考えでアメリカに渡ったと思っていると思う。だが、そんなにお気楽精神は持っていない。少なくとも今の段階は。
「いいや。私にしか救えないよ。仲の良い友達で、ある程度の疎遠な関係で。こんな立場にいる私だからこそ、どうにかすべきなんだ。霧隠三太が出来ないなら、私が制覇ちゃんを救ってみせる」




