その肺を止められて
脅迫にも思えたその威圧感は、言葉の意味を『いかないよね?』ではなく、『行ったら殺すぞ』に変えた。そりゃそうだ。前回の騒動でどれだけ問題になった。その最前線で俺を注意していたのは美橋及火である。
前回の例でいうと、成功か失敗かは賛否両論になるかもしれない。無事に忍者の世界から脱出し、サンタクロース一本で生きていける状態になったのは、あくまで結果論である。言うまでもないが、狙ってこうなったのではない。
俺は一度、死にかけたのだ。制覇様の最新技術を駆使した人工肺が起動しているからこそ、まだ俺は生きているだけで、その悲惨な結果は、失った代償は軽いものではなかった。
俺が傷つく分には構わない。だが、他のサンタクロースの皆様。アデライトさん。そして国谷朝芽や美橋及火まで、この騒動に巻き込み、心配をかけたのは事実である。俺の仕出かしたことは過ち以外の何物でもない。
それを本人の前で。悠長に『もう一度会いに行く』なんて言葉が言えるだろうか。俺はそこまで神経が麻痺していない。
「正直な話をします。私がいくら悩んで、サンタクロースが団体として、いくら損害を及ぼそうといいのですよ。あなたの信念に基づく行動は一定の評価をしたいですし。でも……そういう意味の心配じゃないんです」
……俺ってもしかして、そうとう面倒な奴っていう扱いじゃないのか? いや、自覚はあるのだ。今までの俺の横暴が曲がりなりにも罷り通ってきたことの方が異常だ。しかし、こんな言われ方をするなんて。
「できるだけ、皆には迷惑をかけないように計画するつもりだ」
「まあ、あなたなら行く決心をしているのではないかと思っていました。ここ最近のあなたの不安顔の要因だったのでしょう。それで私は依然としてあなたを食い止めたいと思っていますが」
美橋の人差し指が俺の胸を刺した。俺に視線を促すように。俺も攣られて方向を眺めてしまう。俺の胸、俺の肺、もうどこにもない戦いでの代償。
「桜台制覇に今度こそ殺されますよ。その肺を止められて」
「っつ!!」
思いつかなかった。そうだ、この人工肺は病院で正式に手に入れた物ではない。制覇様が独断で植えつけた正体不明の機械だ。あの人は俺の顔を見たくもないと、思い出を捨て去る形で俺を捨てた。新しい事を始める人間が、過去の産物を捨てるのは珍しいことじゃない。弱い過去への脱却の証なのだから。
つまり制覇様は俺を極力、もう目にしたくないと思っている。そうじゃなかったら、忍者機関やサンタクロース団体に、俺についての根回しなんかしなかったのだ。過去の因縁を完璧に捨て去る所作だったはずだ。
そんな俺が姿を現したら……。
「確実に殺される……」




