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桜台制覇に……会いに行かないよね?

 「六年前だよ」


 俺とあの人の年差は五歳離れている。つまり修行を終えて一人前の忍者になるために、試験を受けに行ったっきり家に帰っていないのである。当たり前だ、試験に受かったならば、帰ってくる理由などない。


 「その間にお姉さんと会ったことは」


 「あるはずないだろ。そういう決まりなんだ」


 どうして姉さんは俺の友達に話なんかかけたんだ。まさか制覇様を救い出すように仕向けているのか? どうして今更になって……。意味が分からない。あの人はもう人生を諦めて、残り少ない人生を優雅に暮らす所存じゃなかったのか。


 「俺の姉がなにか粗相を……。自暴自棄にでもなったのか?」


 極悪非道な性格だとは思っていたが、弟の友達に嫌がらせするなど、そんな小さいことをする人じゃなかった。俺の家族贔屓かもしれないが、姉がそんな意味もなく他人にちょっかいを出すとは思えない。


 「初めの印象は悪くなかったです。突然に現れて驚きましたが、丁寧な態度の心から親切な人だと思いました。しかし、だんだん本性が顕になったというか、深みのある怖さがあったというか」


 あの異次元にでも繋がっていそうな目。引き込まれそうな黒髪。見下ろすような身長差。そして、惑わすような口調。長年の暗殺業で身につけた日本独自の演出感である。あの人は本当に恐ろしい人だ、兄弟での絶対的な壁を感じてトラウマになったのは、主に兄貴ではなくあの姉のおかげなのである。


 「あの人は……」


 「狙いは桜台制覇にあなたを合わせることでしょう。それにしても、あなたのお姉さんは別に桜台制覇になど興味はないはずなのに。目的は『あなたの幸せ』でしょうか。桜台制覇を失ったあなたを憂い、行動を起こしたのだと確信しました」


 ど……うし……て? 俺の姉が、俺の為に? あの極悪非道の殺人鬼が? 言われたままに、依頼通りに任務を遂行してきただろう殺人マシーンが?


 「……ありえない。あの姉が……誰かの為に動くなんて……。いや、チケットをくれたことは感謝しているけど。それ以上を行動しているとしたら、間違いなく『やり過ぎ』の部類だ。そんな馬鹿な……」


 もうこれは何か裏があるとしか思えない。できれば良好的な意味での『裏』ならばありがたいのだが、もし俺がまったく予想もできないような恐ろしい『裏』であったなら、その恐怖は計り知れない。


 「嫌な予感がしますね。本当に一難去ってまた一難です。それにしても、まだ桜台制覇が話に関わってくるとは。ゆくゆく面倒な存在だ」


 「そうね……」


 「……それで、ちょっと聞いておきたいことがあるのだけど」


 「なに……?」


 オレンジジュースがストローを染めて、すぐに中身の方が空になった。美橋が時折見せる、本気でのサンタクロースモードの目だ。彼女の本性にして、その鋭さは仇名す人間を追い込む。雰囲気が、会話の流れが一気に変わった。


 「桜台制覇に……会いに行かないよね?」

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