制覇様に笑顔を届ける
霧隠三太、最大の危機を感じている。と、俺が言っても言葉の重みがないかもしれない。だって去年のクリスマスからこっち、命の駆け引きからまともに開放された気がしない。ここ最近に一瞬だけ解放された気分でいたのだが、所詮は幻想だった。ありはしない幻と表現しよう。
それからというもの。俺はどうにかアメリカへ旅立ち、その名も知らない科学研究会に足を運び、制覇様が設置しているだろうトラップを掻い潜り、待ち構えている彼女に会いに行くのだ。
成功確率はゼロに等しい。今時の表現を利用するなら『無理ゲー』だ。だってそうだろう。居場所が特定できない。移動手段、旅行手段がない。トラップをはってある。そもそも俺に制覇様が会いたがっていない。誰からの支援も受けられない。それどころか反対される始末だ。
「ダメだ……」
心からロリコン一色に染まったはずだった。俺は子供が大好きで、サンタクロースになったはずだった。心に鋼の魂が確実に廃れているのを感じる。心のどこかで諦めろと叫ぶ自分がいる。一応、桜台制覇との関係には決着がついた。それはわかっている。それでも戦えという自分と、諦めろという自分が、二つとも健在する。
わかっている。俺には無謀だ。今までの人生で百点満点の結果なんて出した試しがないだろう。そうでなくても、恐ろしい結果、予想外の結末というのは、普通に考えられるのだ。どこまで人生を舐めている気だ、俺は。身の丈に合わないのは、もう重々分かっているだろう。
「制覇様に笑顔を届ける……」
彼女は生粋の悪人だ。その彼女を善の道に誘うのではなく、悪の道へと送り込んでしまった。いや、向かっていくのを、抗うも抵抗むなしく行ってしまった。俺は彼女を……救えなかった。自分の選んだ道を進んだ、自分が思い描く人生を進んでる。そう表現すれば格好良いが、人生はそんなに簡単じゃないだろう。子供の性格は親の育て方や置かれていた感情が密接に関わるのだ。ならば、周りにいた大人にも責任はあって当然だろう。
制覇様を救うことが出来なかった俺は、またも人生の負け犬として、人生の乗り越えられなかったハードルとして、また明日を生きるのか。これを罪悪感という。心が真に望むことを利得感情で躊躇い、燻っていることだ。でも……簡単にその心が望んでいる道へ走ってはいけないだろう。走っては駄目なんだ。
……制覇様……。あなたから居場所を貰った。希望を貰った。チャンスを貰った。肺を貰った。そんな俺が珈琲屋のアルバイトをしても……それでいいのですか?




