宿題を残してしまったのですよ
こいつの行動原理を考えてみる。ずっと私の家に忍び込んでいた。どうして……。まさか弟の忍者の試験会場を監視する為に、先回りして、あのモンスターキャッスルにいたというのか。こいつはサンタクロースの方には関係はなかったはず。じゃあ……。
ここからは完全に予想だが、こいつの目的は弟を忍者として手厚く保護することではない。忍者試験の間に首を突っ込まなかったことを考えると、こいつはもっと別の目的があるはずだ。それは自分と同じ境遇にすること。
つまりは忍者を辞めさせること。それには一度死んだという偽装が必要だった。救うにしては、あまりに割に合わない究極的な選択であったが、自分の死んだという事実を見せる必要があったのだ。
この霧隠一式という女は間違いなく死んでいる。いや、死んだという偽装工作をしている。こいつはきっと、自分に関わる客を一掃し、自分を取り巻く環境を激変させた。こいつは忍者として優秀過ぎた。だから……忍者の掟すら崩壊させた。忍者には戸籍など意味を成さない。自分を忍者だと知っている連中を皆殺しにすれば、それで自分をあっさりと世界から消せるのだ。
こいつは霧隠一式ではない。ただのコスプレイヤー。正体不明の何者でもない存在である。
「お前……」
「私は別にシスコンでもブラコンでもありませんよ。馬鹿の弟が身の丈も知らずに忍者になろうとして忍者採用試験なんて不合格になるだろうと思っていたから、殺した偽装をして社会へ逃がしてやる算段だったのですよ」
その計画は完璧なまでに狂った。まさかサンタクロースという正体不明の存在が彼の人生を大きく変えてしまったのだから。
「悩みましたよ。悩んだあげくに私は観察することに決めました。仲間と一緒にサンタクロースの試験とやらに忍び込んだり、精神的にバックアップしてあげたり。優しく宥めてあげたり……」
まるで姉らしいだろうと言いたいのか? 年頃の兄弟の関係ならもう少し希薄になるものだろうが。まあでも、自分の弟が職場に行く際にお弁当をつくる程度ならするかもな。
「私が彼の背中を押した。あなたから別れるように。あなたを世界征服から遠ざけようとすれば、真っ当な解決になるはずがない。きっとあなたと弟は衝突する。まさか桜台則之までしゃしゃり出るとは思っていなかったけど」
結果は上々。これにて晴れて忍者を脱却し、サンタクロースという職も得て、来年から高校生になれた。これで奴としても望み通りの結末だったはず。
「でもね。私の弟は宿題を残してしまったのですよ」
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