警戒心はマックスを振り切っている
忍者が変身するのは特に驚くことじゃない。変装術の達人だろうさ。コスプレイヤーとかワザとらしいと思うのだが、どうしてここまで直接的だろうか。
「だから私はどうでもいいのですよ。『あなた』が問題なんです。私は世界が火の海のなろうが、其の辺で罪無い人が何人死のうが興味はないが、あなたが救われないというのは極めて問題なのですよ」
問題はお前だろうが。今までの掛け合いは私を世界征服という固有概念から開放するという、あのロリコンサンタクロースのような慈愛精神による優しさではない。こいつに限っては絶対に違う。きっと……私の想像が正しければ……悪夢だ。
「さぁ、小学二年生。楽しい、楽しい、道徳の授業だよ。戦争はどうしてしてはいけないでしょうか?」
知ったことか。普通の小学生低学年程度なら『戦争はいけません』って言葉を有無を言わざす擦り込むのが大人の手口ではないか。それを何をこの私に向かって意味深に唱えているのだ。気持ちが悪い。
「多くの人が死ぬから。大切な建造物が壊れるから。非人道的だから」
「うん。これはね。実は小学生に問題を問い掛ける場合の必須事項なんだけど。『正解は一つじゃない』ってフレーズなのだよ。だから『戦争は駄目』って言う内容を学校の先生は実体験の話や写真を見せることで生徒の一人一人に考えさせて分からせるんだ」
……そんな教育論が私の心に響くとでも思うのか? 私を誰だと思っている。桜台制覇だぞ。遍く大人たちを黙らせ、頭脳と支配力で全てをコントロールしてきた悪の化身だ。今更常識的な概念に縛られてたまるものか。それにお前に対する警戒心はマックスを振り切っている。もうお前がどんな説法をたれたところで私が聞く耳を持つと思うな。
「それでは学校を絶賛不登校中の桜台制覇さん。本当に君は世界征服を成し遂げられると思っているのかい? 実現不可能なのかという質問だ。君も科学者なら物事を数値で判断してみなよ」
ゼロだ。だからなのだと言うのだ。不可能に挑む度胸がなければ、なんの意味が有る。不可能に挑んでこそ、最強の悪党だ。
「普通の漫画で描かれる世界征服は基本的にまず、世界から人間を消すことを考えるのが一般的だ。霊体にしたり、時を止めたり、幻覚の中に閉じ込めたり、宇宙空間に地球を爆破した上で逃げ出したり。でも君はまだ人類を消滅させる気はないらしい」
正気じゃないのはどっちだ。お前のほうが気が狂っているじゃないか。どうせこの問答もあいつの為にやっているのだろう。




