あなたが思い描くラスト
使い慣れていない職場は私のストレスを加速させた。今から世界征服に挑もうとする人間が自分の恩師を救った。極悪非道に反する行為だ。私は心の底から鬼になれていないのかもしれない。いや、鬼では世界は掴めない。掴めるのは同調性のある人間だ。
世界征服には資金がいる、人材がいる。その資源的な問題を解決するには崇拝してくれる仲間が必要だ。だから切り捨てていい時間帯までは、良い待遇で饗さなければならない。こいつらが動かなくなったら困るのだ。私に駆け引きなしの無償で力を貸してくれる人間は消え去ったのだ。
あいつは私の幸せの具現者だった。私はあいつに跨って、ぶら下がっていたら、一般的な幸せ程度は掴めたかもしれない。今のように茨の道を突き進むような真似はしなくてよかった。私の頭脳と影響力をもってしてもあからさまに世界征服は困難だ。
私はこの地球でどれほどのちっぽけな存在だろうか。それをいつも痛感させられる。物事が全て世界規模になった、考え方がワールドワイドになった。それが私にこれ以上にない恐怖を植え付けた。作戦を立てる度に感じる、痛感して諦めそうになる……『あれもダメ』、『これもダメ』の押収だ。
あの間抜け忍者モドキサンタクロースは私の事を、世界征服くらいやってのける人材だとか勘違いしているかもしれないが、そう簡単な話ではないのだ。幾戦の敵を相手取らなければならないだろうか。想像絶するわけである。今までの私の科学技術的な進歩だけでは駄目だ。既存科学など到底覆すような、突飛押しもない奇跡が舞い降りない限りは……まず不可能であろう。
「制覇様、お茶が入りました」
「ありがとう、機械に濡れたら危ないから、そこの安定した机に置いといて」
「かしこまりました」
お茶を持ってきたのは、郵便局にあるポストのような着ぐるみを着た、気色の悪い男だった。そう言えば、面白半分でこんな奴を雇ったなぁ。
「どうですか? 世界征服の作戦は?」
「お前……いきなり核心を突いてくるね。ご覧のとおりさ。どう足掻いたって不可能。私の敗北は目に見えている」
少々、怒り気味に言った。奴に悪意はなかっただろうが、私としては聞かれたくなかった質問だった。頑張っている人に、頑張れと言ってはいけないみたいな、アレだ。
「いっそのこと、人類を破滅させるウイルスでも蔓延させるか。火力で黙らせるよりも楽だろうし」
「楽かもしれませんが、その後の世界が果たしてあなたの望む世界になるのでしょうか。あなたが思い描くラストにしなくては」
私が思う……ラストか。




