じゃあお仕事頑張ってください
制覇様に締め出しをくらったのはこいつも同じだ。あれから国谷朝芽は制覇様にあっていない。それで友達の絆が崩壊したとも思っていないだろう。少なくとも国谷はそう確信していると思う。
それでも落ち込んでいるようだ。俺に『魔力を教えてさしあげろ』と言って、本当に俺が強引に事件に決着をつけようとして、死にかけて、これが話の顛末だと言うのだから。心の底から笑えないと思う。
「制覇ちゃん……元気かなぁ」
「制覇様なら大丈夫だ。市販で売っているエネルギードリンクとか比べ物にならないくらい、半端ないエキスを飲んでいると思うから」
「それで健康が保たれるってどうなのよ」
保たれるとは限らないと思うな。心配をしていない訳ではないのだ。制覇様に俺がついていて何がどうなる訳でもないのだが、情報を得られないというのも、それはそれで不安だらけだ。というか、悩みに苦しんでいるのがデフォルトの自分自身が変だろうな。
「ねぇ、本当に制覇ちゃんの居場所とか特定できないの?」
「それが出来たらお前に情報をリークせずに、ひとりで突っ走るよ」
顔を合わせないようにして不機嫌な顔をした。実に気分が悪い。心の中のもやもやがはち切れそうだ。俺は輸血や人工肺で俺を救ってくれたお礼すら出来ないのだから。お別れもなく、これからの人生を歩めなんて、どんなバットエンドだよ。こんなの好みじゃねーよ。
国谷も悲しそうな顔をしていた。せっかくの整った顔が台無しである。眉毛の上にシワを寄せて、目を閉じて、腕を組んで、どっしりと机に座っている。こいつにも思うところがあるのだろう。そもそもの発端はこいつのサンタクロースとしての命令違反なのだから。
「奥に行くから。じゃあお仕事頑張ってください」
「はい、どーも」
美橋に遅れて国谷も奥の部屋にいなくなった。これで寂しい空間に逆戻りである。残ったのは開店準備でランチの用意をしているアデライトさんと、掃除道具を抱えている間抜け顔の俺だけである。あと一時間後には悩んでいる暇はなくなる。俺の喫茶店でのバイトが始まるから。
★
店のベルが鳴った。店内に響くその音色に、『まだ開店前です。申し訳ありません』という、お客様への対応マニュアルを頭の中で復唱した。アデライトさんの方向を無意識に見る。幼女にしか見えないロリババアは『追い返せ』という剣幕な顔を見せた。はいはい、分かりました。俺がするんですね。
来店されたお客様は……俺がよく知っている人だった。
「姉さん……」
「ようやく見つけた」




