サンタクロースは一年に一回しか働かない
ここ最近はゴールデンウィークなる国民の有給休暇で、彼女たちが朝早くから来てくれる場合も多い。接客以外であまり人と会話をしない俺としては、嬉しい限りだ。それに彼女たちと触れ合うと自分がサンタクロースなのだと自覚ができる。
「「おはようございます」」
二人が来店してきた。右の茶髪に普通の女性の身長、全身から緩い和みオーラを吐き出すスーパーポジティブ女、国谷朝芽だ。左の透き通った水色ような髪に、国谷とは対照的な気怠さと面倒くささが滲み出る、外国経営の玩具メーカーの娘である美橋及火である。
二人は桜台制覇へとプレゼント事件で一悶着あり、サンタクロースのあり方として揉めあった経緯がある。主にその事件の火種を生んだ俺にも責任があるので胸が痛いのだが。どうやら程なくして彼女たちはお互いに和解したらしい。女の絆は一度崩壊したら終わりってイメージがあったが、現実はどうも違うらしい。
喧嘩の素早い納め方は意見をお互いにフェアにぶつけ合うことだと聞く。やはり、冷戦状態が長く続いても根本的な部分が埋まらなければ、問題は解決しない。だから気が済むまで言い合って決着をつけるしかないのだ。喧嘩するほど仲がいいとかいうフレーズはここからきていると思う。
ちなみにどっちに軍配があがったのかなど知ったことではない。本人たちに問い質す勇気などないのだ。
「おはようございます。お前ら……暇なのか?」
「暇じゃないよ……でもサンタクロースが普通の女の子のように、一般市民と馴れ馴れしくするのもねぇ。ほら、肝心のクリスマスは私たちって絶賛お仕事でしょ?」
「私はここくらいにしか行く場所がないから。買い物とかテーマパークとか興味ないし。個人的にだらってしたいから」
どうせ時間がくるまで奥のソファーで寝転がりながら漫画読んだり、テレビ見たりするだけだろうが。昼飯は一緒に店内で食べるけど。世間の皆様から、また『サンタクロースは一年に一回しか働かない』とか言われるぞ。サンタクロースだって忙しい人は忙しいのに。主に俺とか。
「あれから制覇ちゃんとは会ったの?」
美橋はとっとと奥の応接室に消えた。開店前の料理の下ごしらえとして店内を掃除している俺に、国谷は物凄くデリカシーのない質問をしてきた。きっと、こいつも友人に会えなくて寂しいのだろう。だから俺に彼女に合える可能性をかけているのだ。
「この前も言っただろう。制覇様はもうモンスターキャッスルにはいない。この国にすらいないかもしれない。行き先不明でどこかへ引越ししてしまったんだ。後を追うにもモンスターキャッスルにすら入らせて貰えねぇ。俺だってお前と立場は一緒だよ」




